じゃあ、今日は三人で入ろっか
夏樹(僕の実の妹)と夏月(夏樹の影。彼女の意識は夏樹そっくりの人形の中にある)はどう見ても双子の姉妹にしか見えないが、実はオリジナルとオリジナルの影である。
「ねえ、お兄ちゃん。私と夏月ちゃん、どっちとお風呂入る?」
「あ、あなたはいつになったら兄離れできるんですか!」
「夏月ちゃん、妹はね一生お兄ちゃんの妹なんだよ」
「それは分かります。ですが! あなたも私も女子高生です! 実の兄と一緒にお風呂に入ってもいい年齢ではありません!」
「年齢? はぁ……私の影のくせに私のこと何にも分かってないんだね」
「はい?」
「あのね、私はお兄ちゃんに体の隅々まで洗ってほしいだけなの。それ以上のことは望んでないの」
「それが問題なんです! いくら兄妹とはいえ、若い男女が浴室で二人きり、こんな状況で何も起こらないと思いますか?」
「起こってないよ。ねえ? お兄ちゃん」
「ああ」
「い、今までは大丈夫だったかもしれませんが、これからどうなるか分かりません! なので」
「ねえ、夏月ちゃん。もしかしてお兄ちゃんを独り占めしたいの?」
夏樹がそう言うと夏月の顔が真っ赤になった。おー、分かりやすいな。
「そ、そそそ、そんなことありません! 私はただ、あなたたちが一線を超えないようにですね!!」
「はいはい、分かった分かった。じゃあ、今日は三人で入ろっか」
「そうだな、それがいい」
「ちょ! ちょっと! 私の話聞いてました? 何かあってからでは困るんですよ!?」
「じゃあ、夏月ちゃんはお兄ちゃんと一緒にお風呂入りたくないの?」
「入りたくない……わけではありません」
「ふーん。じゃあ、お兄ちゃんに体の隅々まで洗ってもらえるとしたらどうする?」
「お、お試しで……一回だけ……やってほしい……です」
「へえ、そうなんだー。なら、最初からそう言えばいいのに」
「え?」
「お兄ちゃんなら頼めばそれくらいやってくれるよ。ねえ? お兄ちゃん」
「まあ、そうだな」
「そ、そうですか。で、では、お願いしてもよろしいですか?」
「ああ、いいぞ」
「本当ですか!? やったー!」
うわー、すごく嬉しそうにしてるー。子どもみたい。
「こ、コホン。えー、では、さっさとお風呂に入りましょう。明日は休日とはいえ、夜更かしはお肌に悪いですから」
「ん? それって人形の肌に影響あるの?」
「フシャー!!」
「わー! 夏月ちゃんが怒ったー! 逃げろー!」
「あっ! こら! 待ちなさーい!!」
平和だなー。いい姉妹になりそうだ。僕はそんなことを考えながら展示室を後にした。




