夏月
展示室にある新しい体を見た夏樹の影は目を丸くした。
「あ、あのー、これはいったい……」
「君の新しい体だよ。あっ、リクエストがあれば身長とか変えられるけどどうする?」
「いえ、結構です。それよりこれは……この体は雅人が作ったのですか?」
「うん、そうだよ」
「えっと、これ、クローンですよね?」
「ううん、人形だよ」
「に、人形?」
「うん、そうだよ」
「で、でも、これはどこからどう見ても」
「夏樹そのものにしか見えない、だろ?」
「は、はい、そうです」
「でも、あんたはこれくらいの出来じゃないと満足できないでしょ?」
「そ、それはまあ、そうですが……。あっ! 今のは違います! でも、完全に違うというわけではありません!」
「どっちなのよ」
「あなたは黙っててください!」
「あれ? そんなこと言っていいのー? これが作れたのは私というオリジナルがいたおかげなんだよー?」
「うっ! そ、それは……まあ、そう、ですね」
「夏樹、あんまり夏月をいじめるな」
「はーい」
「ん? かづきって、私のことですか?」
「ああ、そうだ。『かげなつき』とかだと夏樹の影っていうイメージが強いから影要素と夏樹要素をうまいこと組み合わせたらこうなった。あっ、嫌だったら言ってくれ。新しい名前考えるから」
「いえ! 大丈夫です! え、えーっと、これができるまでの工程はともかく、これは人形であり本物っぽく見えるのはそういう風に見えるようにしてるだけであってクローンではないということでよろしいでしょうか?」
「うん、まあ、そういうことだ。ということで、もう入っていいぞ」
「え? いいんですか? なんか儀式とか必要なんじゃないんですか?」
「そういうのはもう済ませてあるから入って大丈夫だよ」
「そ、そうですか。では、失礼します」
夏月(夏樹の影の意識)が新しい体に入ると同時に僕は夏樹(僕の実の妹)の意識を夏樹の体に移動させた。
「どうだ? 夏月。新しい体は問題なく機能してるか?」
「は、はい! 問題ありません! すごく私好みの体です!」
「そうか、そうか。それはよかった」
「なんか私好みの体ってとこだけ聞くとなんか変態っぽいね。ねえ? お兄ちゃん」
「そ、そんなことありません! ねえ? 雅人」
「え? うーん、どうなんだろう。あっ、でも僕は別に気にしないよ」
「そうですかー。あー、よかったー」




