良かったね
雅人がバイトに行っている間、白猫と夏樹は睨み合っていた。
「念のため言っておくけど、お兄ちゃんは私のものだから手を出したら許さないよ!」
「ニャー?」
こいつ、とぼけてる。
「とぼけるな! お前は、お兄ちゃんのことを自分のものにするつもりなんでしょ!」
「ニャ」
白猫はソファの上で丸くなる。
「あっ、こら! 無視するな! 私の話を聞けー!」
「いつもより騒がしいと思ったら猫と話してたんですね」
音もなく現れたのは座敷童子だった。
「童子ちゃん……。ねえ、そいつを早く追い出してよ」
「なぜですか? こんなに可愛いのに」
座敷童子が白猫の顎に触れると、白猫はゴロゴロと喉を鳴らした。
「こいつはお兄ちゃんのことを独り占めしようとしてるの! だから、早く追い出して!」
「別にいいじゃないですか、この猫との関係は今日限りなんですから」
童子ちゃんも白猫の味方なんだね。
分かった、もういいよ。
「童子ちゃんが良くても、私は嫌なの! こんなのと一緒に居たくない! 早く追い出して!」
「先ほど、雅人さんに白猫と仲良くするよう言われていましたよね? 大好きな兄との約束を破るんですか? もし雅人さんがそのことを知ってしまったら、どうなるんでしょうねー」
お兄ちゃんとの約束を破るのはいけないことだし、お兄ちゃんとの約束を守らないと、お兄ちゃんは悲しむ。
けど、私はこいつのことが嫌い。
何よりも嫌い。
「私……いったいどうしたらいいの……?」
「別に何もしなくていいですよ。猫というのは自由奔放ですから、あなたが意識しなければ白猫も何もしませんよ」
本当かな?
「そう……なのかな? じゃあ、ちょっと頭撫でてみようかな」
「どうぞご自由に」
座敷童子はそう言うと、その場からいなくなった。
「……えっと、動かないでね」
「ニャー」
夏樹が白猫の頭を撫で始めると、白猫はヒゲをヒコヒコと動かした。
「あははは、変なの」
「ニャ!」
白猫がソファから飛び降りる。
その直後、夏樹の膝の上に乗った。
「あっ、こら! 私の膝の上は、お兄ちゃん専用なんだから、お前なんかが乗っていいものじゃ……」
「ニャー、ニャー」
うっ、か、可愛い。
悔しいけど、今は動かない方がいいかもしれない。
「わ、分かったよ。少しの間だけ貸してあげるよ」
「ニャー」
な、なんだろう。
急に可愛く思えてきた。
に、肉球触っても大丈夫かな?
「うわ、思ったより触り心地いい……」
「ニャー」
ちょ、肉球でフニフニしないで!
なんか変な気分になっちゃうから……。
「ニャー?」
白猫は気持ち良すぎて横になってしまった夏樹の腹部付近で丸くなった。
良かったね、少し仲良くなれて。




