ケンカの原因は?
ん? なんか誰かの泣き声が聞こえる。リビングの方から聞こえてくるな。
「誰かいるのか?」
「……あっ、雅人さん」
「え、えーっと、な、なあ、童子。いったい何があったんだ?」
「……です」
「え?」
「ケイちゃんとケンカしちゃったんです」
「……え?」
そうか。水の精とケンカしたのか。
「えーっと、ケンカの原因は?」
「雅人さんの体を食べるならどこがいいかで揉めました」
「なるほど。いや、待て。なんでそんな話してたんだ?」
「大好きな人を食べたいという欲求は誰にでもあるからです」
「うーん、それは性的な意味で?」
「いえ、普通に食事の方です」
ええ……。
「そ、そうか。まあ、とにかく早くケイちゃんを探さないといけないな」
「ケイちゃんは庭にいます」
「近いな。で? いつになったら室内に入ってくれそうなんだ?」
「分かりません」
「そうか。じゃあ、ちょっとケイちゃんと話してみるよ」
「……仲直りできると思いますか?」
「それはお前たち次第だな」
「そう、ですか」
「大丈夫、大丈夫。なんとかなるよ」
「そうでしょうか? 一生仲直りできないなんてことにならないでしょうか?」
「童子、お前はもう少し肩の力を抜いた方がいいぞ」
「で、ですが!!」
僕は座敷童子の童子を優しく抱きしめると頭を優しく撫で始めた。
「大丈夫。きっとなんとかなるから」
「……だといいのですが」
「童子は心配性だなー。大丈夫だよ、僕がうまくやるから」
「……分かりました。私はあなたを信じます」
「そうそう、それでいいんだよ。じゃあ、ここで少し待っててくれ」
「はい」
僕は彼女の涙を拭ってから実家の庭に向かって歩き始めた。




