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佐藤 南

 深夜の町に現れた巨大な肉の塊を座敷童子の童子わらこが結界に閉じ込めた後、鬼姫ききが言霊の力で動きを止めた。その直後、夏樹なつき(僕の実の妹)が結界内に侵入、自身の黒い長髪で全身を包み込むとそのまま肉の塊の中心に向かって突き進んだ。


「着いたよ! お兄ちゃん!!」


「ありがとう、夏樹なつき。じゃあ、行ってくる」


「うん、いってらっしゃい」


 僕は夏樹なつきの体内から出ると肉の塊を出し続けている美人四天王の一角を起こしに向かった。僕がベッドで寝ている彼女の鼻をまむと彼女はゆっくり目を開けた。


「あれ? どうしてあなたがここに……」


「君を起こしに来たんだよ。お姫様」


 僕が彼女の鼻から手を離すと彼女は僕の背中に腕を回した。


「それ、本当?」


「ああ、本当だよ。一人で起きられそう?」


「無理。抱き上げて」


「分かった。よっと」


「これ、夢じゃないよね?」


「君が夢じゃないと思うのなら、それはきっと夢じゃないよ」


「そっかー。ああ、生きててよかった」


 彼女がそう言うと肉の塊は消滅した。


「……『佐藤さとう みなみ』。それが私の名前だよ」


「知ってるよ。うちの高校の美人四天王の一角なんだから」


雅人まさとくん、それは違うよ」


「違う? 何が?」


「美人四天王はね、全員病人なの。なのに、みんな勝手に美人四天王だなんて呼び始めて……」


「そうだったのか。でも、実際全員美人じゃないか」


「それはね、病気の副作用のせいなんだよ」


「副作用?」


「うん。えっと、私の場合食べすぎると寝ている時に全身の肉が大きくなっちゃうけど、勝手に動き回るから運動してる状態なの。だから」


「寝てるだけでダイエットになる」


「そう。あー、あと私に足りない栄養素は肉が勝手に食べてくれるからサプリメントを買う必要ないの」


「なるほど。つまり君が健康でいられるのは君の体のおかげってわけか」


「まあね」


「そうか。あっ、ちなみに君がお酒を飲んだらどうなるのかな?」


「私、基本的に好き嫌いはないんだけど、カフェインとか甘酒で酔っちゃうから多分飲めない」


「そっか。まあ、とりあえず食べすぎには注意してね」


「もうしないよ。君のこと気に入っちゃったから」


「そっか。あっ、ちなみに他の四天王の住所とか知ってる?」


「知ってるよ。まあ、全員クラス違うからたまにしか会わないんだけどね」


 彼女は僕に他の四天王の住所を書いたメモを手渡すと僕をギュッと抱きしめた。


雅人まさとくん、君のおかげで私は救われた。本当にありがとう」


「どういたしまして。じゃあ、僕そろそろ行くね」


「え? 泊まっていかないの?」


「うん。みんな僕の帰りを待ってるからね。というか、明日学校で会えるじゃないか」


「そうだね。じゃあ、またね、雅人まさとくん」


「ああ」


 彼はそう言うと私の前からいなくなった。うーん、これは脈なしかなー。いや、まだ卒業まで時間はある。チャンスがないなら作ればいい。よおし、やるぞー!

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