利他的?
自由は不自由? 金に執着しすぎるな? ネガティブ思考はやめよう? そんなの余裕のあるやつしか言えねえよ。
「……あー、なんかもう何もかもどうでもいいや」
「あれ? もしかして、ムジナおじさん?」
「ん? あれ? お前、もしかして雅人か?」
「うん、そうだよ」
「そっかー。大きくなったなー。ところでお前、どうして夜の歓楽街にいるんだ?」
「ただのパトロールだよ」
「パトロール?」
「うん」
「あー、ダメだダメだ。学生がこんな夜中にウロウロしちゃ」
「普通はね。でも、これは警察に頼まれてやってるから」
「そうか。なら、いいんだが」
「ところでおじさんはここで何してるの?」
「え? あー、仕事のストレスを発散しに来たら酒を飲みすぎたせいで財布が空になってだな」
「あー、それで今は路地裏で休んでるんだね」
「まあ、そういうことだ。それより俺これからどうしたらいいと思う?」
「年下に人生相談するの?」
「ああ。というか、今話せるのがお前しかいないんだよ」
「そっか。じゃあ、おじさんは今何のために仕事してるの?」
「え? そりゃあ、自分の生活のためだよ」
「ふーん。じゃあ、それはいつまで続けるの?」
「そうだなー。まあ、定年まで続けるんじゃないかな」
「そっか。でも、おじさんはたまにここに来て飲んじゃうからお金そんなにないんじゃないかな?」
「ぎくっ! ま、まあ、そうだな」
「じゃあ、これからは利他的になればいいんじゃないかな?」
「利他的? 利他的ってなんだ?」
「おじさんは今、利己的つまり自分自身のために行動してるんだよ。まあ、それは別に悪いことじゃないけど、おじさんの場合、利他的つまり誰かのために行動した方がいいような気がするんだよ」
「誰か? それは誰でもいいのか?」
「誰でもいいよ。人間でも妖怪でも神でも架空のキャラクターでもとにかくこいつのためなら頑張れるみたいな存在を見つけた方がおじさんは生きやすくなると思うよ」
「そうか。じゃあ、俺はお前のために仕事頑張るよ」
「え? 僕?」
「ああ。人間も妖怪も神も嫌いな俺が唯一心を開ける相手がお前だからな」
「そうなの?」
「ああ、そうだ。その証拠にこの話はお前以外誰にも話してない」
「そっか。じゃあ、明日からもお仕事頑張ってね」
「お、おう、分かった」
「じゃあ、僕もう行くから」
「おう、気をつけろよ」
「うん」
あいつ、前会った時より人外になってたな。でも、同時に前より成長してたな、色々と。もしかして最近噂になってる『星の王』だったりしてな。気のせいか。
「さあて、帰って寝るか」




