じゃあ、二番目は?
座敷童子の桜子が最初に放った技は貫手だった。アリにすら負けそうな華奢でぱっと見小学生にしか見えない幼女が放ったその一撃は僕の心臓を貫くほどの威力だった。
「なぜだ! なぜ何もしなかった!!」
「いや、一撃も当てられずに負けたら辛いだろうなーと思って」
「お前、私をバカにしているのか? 私は童子が生まれるまで最強の座敷童子だったんだぞ? それなのにお前はそんな私の攻撃を避けたり受け流したりカウンターを狙ったりせず、まともに受けた。だというのに! お前はこれっぽっちもダメージを受けていない!! これはいったいどういうことだ!!」
「さぁ? どうしてだろうな」
「はぁ?」
「星の王になってからなんか変なんだよ。君の肌に触れた時の感触や柔らかさ、体温なんかは感じるのに痛みやダメージはほとんど感じない。なんというか何かが勝手に相殺してるんだよ。そういうものを」
「お前はいったい何を言っているんだ? ちゃんと分かるように説明しろ!!」
「うーん、難しいなー。じゃあ、ちょっとつながってみるか?」
「な、何とだ?」
「何って、この星とだよ」
「ま、待て! やめろ! よく分からないが私の本能がそれを否定している! だから、やめろ!!」
「そうか。じゃあ、やめよう。よし、じゃあ、今度はこっちの番だな」
「そ、そうだな。よし、じゃあ、仕切り直すか」
「おいおい、君は標的にも同じことを言うのか?」
「ん? どういうことだ?」
「分からないかな? 僕はこの状態から始めたいんだよ」
「え? いや、だってお前今私に心臓を貫かれて」
なっ! し、しまった! こいつ、肉と骨で私の腕が抜けないようにしている!! くそ! こうなったら腕を切り落とすしかない!!
「僕はね、君みたいなかわいい娘が自分で自分の体を傷つけるのを直視できるほど強くないんだよ。だから、やめよう。こんな無意味な争い」
「む、無意味だと!! お前にとっては無意味でも私にとっては意味があるんだよ!!」
「そうか。じゃあ、このまま僕の体に押しつぶされて死ぬといい」
「え? ま、待て! そんなのどうやって対処すればいいんだ!! 自爆でもしろって言うのか!!」
「君は命のやり取りがしたいんじゃないのか? それともこれは練習試合なのかな?」
「い、今はそんなことどうでもいい!! それより早く私の腕を離せ!!」
「離したら君はきっとこれからも変わらないよ」
「何?」
「君はもう誰かのために自分の手を汚さなくていいんだよ。今は昔より少なからず良くなってるから君はもう休んでいいんだよ」
「休んでいい? 休んでいいだと? 戦うことでしか自分の生を実感できない私が休んだら私は私じゃなくなる!! そんなの私は嫌だ。誰かに必要とされないのは死んでるのと同じだ」
「そうか。じゃあ、そんな君を必要としてくれる人がいればいいんだね」
「そんなのどこにもいないよ」
「そうかな? 意外と近くにいるかもしれないじゃないか」
「ん? ま、まさかお前がこんな私を必要としてくれるのか?」
「僕だけじゃないよ。君が今住んでる住人や僕の家にいる住人、そして君の同期や先輩、後輩たちもきっと君のことを必要としているよ」
「そ、そんなことあるわけ」
「否定するならこのまま押しつぶすよ?」
「あー! やっぱ今のなし!! だから、頼む! 殺さないでくれ!!」
「分かった。じゃあ、これからのことを考えようか」
「これからのこと?」
「ああ、そうだ。君が君らしく生きられるそんな未来を実現させるためにこれから一緒に考えるんだ」
「わ、私、そんなに頭良くないからそういうのよく分からないよ」
「大丈夫。君はただ君の願望を垂れ流すだけでいいよ」
「垂れ流すって、お前な……」
「ん? 僕なんか変なこと言ったかな?」
「いや、言ってないよ。それよりそろそろ私の腕離してくれないかな?」
「え? あー、うん、分かった。そーれっ」
「ふぅ、やっと抜けた。なあ、もしかして最初からこうするつもりだったのか?」
「いや、君がいきなり神を殺せるレベルの攻撃を放ったら『だるま』にしようと思ってたよ」
「真顔で恐ろしいこと言うなよ。えっと、私はこれから何をすればいいんだっけ?」
「そうだな、じゃあ君が生きるのに一番必要なものを言ってくれ」
「戦闘!!」
「そうか。じゃあ、二番目は?」
「二番目? うーん、そうだなー……お前、かな?」
「え? 僕?」
「ああ。ほら、お前は一応私をちゃんと見て、受け止めて、受け入れてくれただろ? それにお前は私に未来や希望、可能性なんかを与えてくれた。だから、すっごく感謝してる。あー! やっぱ今のなし!! 忘れてくれ!! なんかすっごく恥ずかしいから!!」
「ごめん。地球の本に永久保存しちゃった」
「地球の本? なんだ? そりゃ」
「地球に関すること全てがリアルタイムで書かれている本だよ。まあ、僕とアースちゃん以外はその存在すら認識できないんだけどね」
「そ、そうか。それよりさ、お前って……か、彼女とかいるのか?」
「え? いないけど」
「本当か? じゃあ、お前の将来の嫁候補になってもいいか?」
「別にいいけど、ライバルは多いぞ。というか、日に日に増えてると思う。それでもいいか?」
「いいねー、燃える展開だねー。そういうの大好物だよ」
「そうか。なら、良かった」
「ということで、これからちょくちょく遊びに行くからな! 逃げるなよ!」
「逃げないよ。君を僕の目の届かないところに置いておくのは危なっかしいから」
「な、なんだと! この野郎!!」
「わー、桜子が怒ったー、逃げろー」
「待てー! 逃げるなー! 止まれー!!」




