まっすぐゴー!
昼休みに雅人が幼馴染と戯れている時、座敷童子と夏樹は。
「わーらーこちゃん! そろそろ本当のこと言ってよー」
「い、嫌です! というか、ついてこないでください!」
座敷童子を追いかけているのは夏樹ちゃんである。
夏樹ちゃんは雅人の実の妹である。
ついでに言うと『二口女』である。
「待て待てー」
「いーやーでーすー!」
なぜこんなことになっているのか。
それは座敷童子が雅人に。
「ねえねえ、童子ちゃん。どうしてお兄ちゃんのほっぺにチューしたのー?」
「知りません!」
そう、彼女は朝、彼が学校に行く前に彼の頬に口づけをしたのである。
彼女はなぜ自分がそんなことをしてしまったのか分からず混乱しているのである。
「そっかー。ということは、童子ちゃんは好きでもない人にチューしたってことだねー?」
彼女は急に立ち止まる。
「そ、それは違います! ……あっ」
夏樹の黒い長髪が彼女を拘束する。
座敷童子は文字使いだが、文字を書けなければ、ただの座敷童子である。
「な、何をするんですか! 離してください!」
「えー、やだー。だ・け・ど……童子ちゃんが本当のことを言ってくれたら解放してあげるよー」
座敷童子は彼女から目を逸らす。
「わーらーこちゃん! こっち向いてー」
「嫌です……」
夏樹は自分の黒い長髪を使って半ば無理やり彼女の視界に自分の顔が入るようにした。
「ねえねえ、童子ちゃん。どうしてお兄ちゃんにあんなことしたの?」
「わ、分かりません」
本当かなー?
「童子ちゃんはお兄ちゃんのこと、好き? それとも嫌い?」
「好きでもありませんし、嫌いでもありません。しかし、興味はあります」
そっか、そっかー。
「へえ、そうなんだー。つまり、朝のアレは自分でもよく分からずにやっちゃったってことかなー?」
「そ、そうなりますね」
逃げたい、今すぐ逃げたい。
「そっかー。よし、じゃあ、これから、お兄ちゃんの部屋に行こう!」
「ど、どうしてそうなるんですか?」
彼女は座敷童子のその発言を聞かなかったことにした。
「まっすぐゴー!」
「ちょ、ちょっと! 私の話を聞いてくださいよー!」
彼女のその言葉は夏樹の耳に入りはしたが、すぐに出ていってしまった。
よって、彼女は夏樹ちゃんと一緒に雅人の部屋に行くことになったのである。