複口
彼氏が動かなくなってから三日くらい経った頃、見知らぬ男の子がやってきた。
「これは君がやったのか?」
「やったというか、本当の私を見たら意識を失っちゃって。それから」
「あー、実はその時ショック死してたんだろ?」
「そうそう」
「そうかー。えっと、この人は君の彼氏?」
「だった人だね。あーあ、ようやく当たりが引けたと思ったのになー」
「えっと、この死体どうする?」
「そこに置いといていいよ。今日中に食べるから。はぁ……やっぱり口がたくさんある女の子は幸せになっちゃいけないのかなー?」
「世の中にはいろんなやつがいるから一人くらいはきっと君を好きになってくれる人がいるよ。ちなみに僕の妹は二口女だ」
「マジ!? 結構レアな妖怪じゃん!! あー、でも、毎日の食費すごそう」
「え? 二口女ってレア妖怪なのか?」
「私の中ではレア妖怪だよー。ほら、たしか有名なモデルが二口女でしょ? 私、その妖怪にすっごく憧れててさー、一度でいいから会ってみたいんだよねー」
そのモデルは十中八九、僕の母親だ。
「そうか。いつか会えるといいな」
「うん。あっ、そろそろ食べていい?」
「え? あー、いいぞ」
「えっと、しばらく外にいた方がいいよ。私、体にたくさん口があるから」
「僕の幼馴染は百々目鬼だから、今更そういうの見てもなんとも思わないんだよ」
「あんた、やけに妖怪慣れしてるね。もしかして退治屋だったりする?」
「もしそうだとしたら君はとっくに襲われてるよ」
「だよねー。じゃあ、いただきまーす」
うーん、たしかに口がたくさんあるなー。大小バラバラだから数えにくいなー。
「あー、口の数は日によって変わるから数えなくてもいいよ」
「そうか。というか、数えたことあるのか」
「まあねー。あー、おいしい。あんたも食べる?」
「いや、いいよ。このあとこの部屋をきれいにしないといけないから」
「そっかー。分かったー」
彼女は全身にある口を使って彼氏だったものを全て平らげた。
「あー、おいしかった」
「そうか。じゃあ、この部屋きれいにするから先に玄関に行っててくれ」
「はーい」
へえ、私の食事を見ても平静を保っていられるんだ。いや、それどころかなんとも思ってないように見えるなー。
「……掃除終わったぞー」
「えー、早くなーい? うーん、でも、すごくきれい。新築の家みたい」
「……正解」
「え?」
「なんでもないよ。ほら、早くここから出よう」
「はーい」
僕は彼女が食べた彼氏だったものを文字の力で最初からいなかったことにした。だから、彼のことを知っているのは僕と妖怪『複口』しかいない。




