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橋姫

 おっと、危ない。今日は橋姫のところに行く日だった。


「お兄ちゃん、どこ行くの?」


「橋姫のところだよ」


「あー、なら私は行かない方がいいかな?」


「うーん、まあ、そうだな」


 丑の刻参りのモデルみたいな存在だからな。


「だよねー。じゃあ、気をつけてね」


「ああ」


 橋姫が鬼になったのは好きな人と結ばれなかったからだけど、仮に彼女の願望が叶っていても別の誰かが鬼になっていたかもしれない。けど、橋姫は生前よりも今の方が生き生きしている。だから、もしかすると彼女にとって鬼化は彼女に相応しい姿なのかもしれない。


「あっ! 兄上だ! 兄上ー!!」


 見た目は幼いがこう見えて僕より年上である。


「おー、久しぶりだな、橋姫。元気にしてたかー?」


「私はいつも元気だよ! あー、兄上の体あったかーい」


「そうかそうか。えっと、最近何か変わったことはないか?」


「うーん、特にないねー。私がこのあたりを歩くだけで人間たちは逃げていくから」


「そうか」


 うん、まあ、橋姫といえば妬んでいた女とその縁者、相手の男の方の親類を殺した後、老若男女問わず殺し始めた存在だからな。それが目の前に現れたら逃げるかその場で腰を抜かすだろうよ。


「ねえねえ、兄上。いつになったら私と結婚してくれるの?」


「君には今も好きな人がそばにいるだろう?」


「あれは体の時間しか止めてないからもうおじいちゃんなんだよ。だからね、私は一生老いない兄上様と結婚したいの」


 あー、そうだった。橋姫は独占欲が強いんだった。


「それ、そのへんの男に不老不死の薬飲ませればいいんじゃないか?」


「ダメだよ。私のことを知るとみんな逃げていくもん。それから」


 橋姫は鬼化しながら僕の顔をじっと見つめた。


「全身に針みたいな白い毛が生えてる女の子を好きになってくれるのは兄上様くらいしかいないんだよ」


「うーん、どうだろう。世界は広いからもしかするとどこかに君を好きになってくれるやつがいるかもしれないぞ」


 まあ、橋姫の過去を知っていてなおかつ鬼化した状態でも彼女を女性として認識できるやつじゃないとかなりきついだろうが。


「ん? それって兄上様じゃないの?」


「僕は君の話し相手だよ」


「人間はもちろん妖怪や神にもやばいやつ認定されてる私と定期的に会って会話してくれるのは兄上様しかいないよ」


「それは僕が君の担当だからだよ」


「兄上様になる前の担当さんたちはみーんな夜逃げしちゃったんだよねー」


「それはもっといい仕事が見つかったからじゃないのか?」


「違うよ。私が私の前を通ったカップルの縁を完全に断ち切ったところを見たからだよ」


「それは橋姫のせいじゃないだろ? 無意識のうちにそうなるんだから」


「そうなんだよ。それなのにみーんな腰抜かして逃げちゃったんだよ。酷いと思わない?」


 この話、何度目かな。まあ、いいや。


「酷いなー」


「でしょー。ということで兄上様。私と結婚しよ♡」


「いや、なぜそうなる」


「私、まだ誰のものでもないよー。好きな人はいるけど結婚はしてないからセーフだよー」


「セーフねー。それより、そろそろ彼の魂を解放した方がいいぞ」


「どうしてー?」


「魂が大ダメージを受けてると転生できないからだよ」


「転生なんてさせないよ。というか、私が一生面倒見てあげるんだから感謝してほしいよ」


 橋姫は本当に一途だなー。けど、残念ながら人間では彼女の愛を受け止め切れないんだよなー。


「はははは、橋姫は今日も平常運転だな」


「そうかなー? ところで夏樹なつきちゃんは元気にしてる?」


「ああ、元気にしてるぞ。なんだ? 顔を見たくなったのか?」


「いや、別に」


「そうなのか? 会いたいなら会わせてやるぞ」


「いや、いいよ。私、あののこと嫌いだから」


「嫌い? なんで嫌いなんだ?」


「昔の私を思い出すからだよ」


「大丈夫。うちの妹は第二の橋姫にはならないよ」


「ならない保証はないよ」


「……え?」


「兄上様がいるから生きてる。そんなの探さなくてもゴロゴロいると思うんだよね。だから、兄上様がいなくなると」


「みんな鬼化するってことか?」


「それだけで済む可能性は低いよ」


「そうなのか?」


「そりゃそうだよ。兄上様の代わりはどこにもいないんだから」


「そうかー。じゃあ、そうならないように長生きしないといけないなー」


「長生きというか、兄上様は死んじゃダメだよ。星が爆発しても死んじゃダメだよ」


「そうなのかー。ハードル高いなー」


「大丈夫。兄上様ならきっとなれるよ。永久不滅の王子様に」


「なれるかなー」


「なれるよ、きっと」

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