ケチャップ
昼休みになっても僕は朝、座敷童子にされたことについて考えていた。
正確には学校に行く前、玄関で……だが。
あれは、あいつなりの挨拶だったのかな?
それとも……。
僕は自分で作った弁当と彼女が作った弁当の中身を交互に食べながら、そんなことを考えていた。
すると、騒がしいやつがやってきた。
「ねえ、雅人ー。そっちのいかにも女子が作ったような弁当って、誰にもらったの?」
『百々目鬼 羅々』は彼の幼馴染である。
「え? あー、これか。これは……その……って、お前には関係ないだろ」
「えー、別にいいじゃん。教えてよー」
彼女は僕より少し身長が高い。
それは別にしていない。
けれど、いくら幼馴染だからといって、胸部を押し付けるのはやめてくれ。
反応に困るから。
「離れろよ、暑苦しいから」
「えー、やだー」
なんでだよ。
「どうしてだ?」
「それはもちろん、雅人を後ろから抱きしめたい気分だからだよー」
抱きしめられるこっちの身にもなってくれ。
「そうか。なら、もう好きにしろ」
「え? いいのー? やったー!」
お前はいつも楽しそうでいいな。
「ねえ、雅人。私にも……」
「ダメだ」
彼女は僕の頬を人差し指でつつく。
「私、まだ最後まで言ってないよー」
「最後まで言わなくても分かる。弁当分けてーだろ?」
彼女は僕の耳たぶを交互にフニフニし始める。
「よく分かったねー、さすがはエスパータイプ」
「誰がエスパータイプだ。せめて、かくとうかノーマルタイプにしてくれ」
こいつ、いつまでここにいるつもりなんだ?
「はいはい。というか、ほっぺにケチャップ付いてるよ?」
「そうか。ありがとう」
僕が手で拭こうとすると、彼女は僕の頬を舌で舐めた。
「……っ!? な、な、な、何すんだよ! いきなり!」
「えっ? 何って、雅人のほっぺに付いてたケチャップを舐め取ってあげただけだよ?」
こいつの思考回路は異常だ。
「あのなー、いくら幼馴染でも、そういうことを教室でやるなよ」
「じゃあ、教室じゃなかったらいいの?」
こいつの頭の中はどうなっているんだ?
「そういうことじゃない。風紀を乱すような行動は慎めと言っているんだ」
「風紀ねー。つまり、私と雅人は仲良くしちゃいけないってことなの?」
そういう意味では……ない。
というか、そこまでは言ってない……。
「それは……違う……けど」
「けど?」
あー、調子狂うなー。
「けど、あんまりベタベタされるのは困るというか、なんというか」
「そっか。じゃあ、もうしない」
え?
「学校では部活の時以外で雅人に話しかけないし、抱きつかない」
「いや、別に話しかけるなとは言ってないだろ」
なんか嫌な予感がするな。
「じゃあ、ハグは?」
「ハグはちょっと……」
困る。恥ずかしい。あと、暑苦しい。
「じゃあ、頭撫でるのは?」
「それくらいなら、いい……かな?」
うん、まあ、それくらいなら。
「なら、これからはたくさん撫でてあげるよー」
「え?」
彼女はニコニコ笑いながら、僕の頭を撫で始めた。
こ、これはこれで恥ずかしい。
「あー、えーっと、ハグも許可します」
「え? いいの? やったー!」
体の一部を永遠に撫でられるよりかはマシだからな。
「えへへへ、雅人ー」
「なんだ?」
彼女は僕の耳元でこう囁く。
「私、さっき雅人のほっぺにケチャップ付いてるって言ったけど、あれ実は嘘なんだー」
は? は? ちょ、ちょっと待て。
じゃあ、さっきのって……。
「きょ、今日のところは、そういうことにしておいてやるよ」
「そういうこと? ねえねえ、雅人ー。そういうことって、どういうことー? ねえねえ」
しつこいなー。
「う、うるさいな。別にいいだろ、そんなこと」
「えー、そんなー。教えてよー、ねえ、雅人ー」
彼女は彼が顔を真っ赤にしながら、そっぽを向く様をニシシと笑いながら見ていた。