大磯撫で
今日は『磯撫で』を狩る日だ。一般人は何も知らないためできるだけ早くやつを狩らなければならない。
「……おはよう」
「おー! 影女じゃないか! よく来たな!!」
「……行けたら行くって言ったから」
「それ、だいたい行かないやつが言うセリフなんだけど、どうやら君は違うみたいだね」
「……あなたがケガしないかどうか不安だから来た」
「え? なんだって?」
「……なんでもない。それと、もうすぐやつが目を覚ますからそろそろ準備しておいた方がいいと思う」
「あー、そうなのか。よし、じゃあ、とりあえず『闇船』を作ろう」
僕は人間の闇で船を作った。まあ、船といっても人が二、三人乗れるくらいの小さな船だが。
「よし、あとはこのまま海に出るだけだな」
「……待って。私も連れてって」
「君はここにいてくれ。危ないから」
「……やつは私の同類だからなんとなく気配が分かるの。だから」
「足手まといにはならない、か。分かった。じゃあ、一緒に行こうか」
「……うん」
無事に帰れるといいなー。
「……えーっと、結構いるな」
「……うん」
「これ、全部『磯撫で』……なのか?」
「……うん」
「……マジかー」
まいったな。狩りに来たのに逆に狩られそうだ。まあ、こっちには優秀な索敵係がいるから問題ないけど。
「……一、十一、二匹ずつ」
「はいよー」
影女は海面に近づくまでどんなレーダーにも引っかからない妖怪が来る方角と数を教えてくれる。いやあ、ありがたいなー。
「……三、十、一と三」
「了解。いっておいで『闇銛』」
人間の闇でできている銛が磯撫での体を貫く。よおし、タイミングばっちり。今のところ負ける気がしないな。今のところは。
「……そろそろ大きいのが来る」
「そうか」
昨日、サメ映画見たからなんかもう何が来ても「まあ、そういうサメなんだろう」と納得してしまいそうな自分がいる。
「……正面! 来る!!」
「ギギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
やつは僕たちにその姿を見せつけるように飛び跳ねた。うーん、これはもう妖怪というかモンスターだな。
「……えーっと、なんで体中にサメの頭が生えてるんだ?」
「……うーんと、その方が獲物を捕まえやすくなるからじゃないかな?」
「いやいや、絶対ケンカするだろ。進行方向決める時とか獲物を誰が捕まれるかで」
「……それは多分早いもの勝ち」
「まあ、そうだろうな。でも、多分今日は全員息ぴったりだな」
「……どうして?」
「星の王である僕を食べれば確実に強くなれるからだよ。そうだよな? 大磯撫で」
「ギギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
さあて、どうやって倒そうかな。




