うーん、忘れたー
やつの体長はだいたい三メートルくらいあった。亜空間から音もなく現れ、人を襲い食らう。突然変異なのか誰かが飼っていたものが脱走し妖怪化したのか。真相は僕の幼馴染に訊けば分かるが、とりあえずこいつをなんとかして説得しなければならない。妖怪『おばけオケラ』を。
「ねえ、君は今日までに人を何人食べたの?」
「うーん、忘れたー」
「そうか。じゃあ、どうして君はそんなに大きいの?」
「知らなーい」
「そっか。えっと、人っておいしいの?」
「まずい。でも、食べ応えはあるよ。骨がたくさんあるから」
「あー、だから死体どころか血痕一つなかったのかー。というか、なんかハイエナみたいだな。えっと、君はどこに住んでるの?」
「一応、この星に住んでるよ」
「いや、そうじゃなくてこの星のどのへんに住んでるのかを知りたいんだよ」
「うーん、土の中が多いかなー。あったかいし、ミミズとかモグラ食べ放題だから」
「そうか。で? どうして人を食べ始めたの?」
「飽きたから」
「え?」
「えっとね、世界中どこにでもつながってる穴を通れば、どこにでも行けるから色んな国の食べ物を食べてきたんだけど、もう私が昇天するような料理はないってことが分かったんだよ」
「いやいや、だからって人を食べるのはまずいだろう」
「私、犯罪者しか食べてないよ」
「え?」
「私が食べたのは全員犯罪者だよ」
「犯罪者でもダメだ」
「えー」
「えー、じゃない。とにかく今後一切人を食べちゃダメだ。害虫とかなら食べてもいいぞ」
「私、誰かが調理したものを食べないとあんまり食べてる気しないんだよねー」
「そうか。じゃあ、僕が調理してあげるから僕の言うことをちゃんと聞いてくれ」
「本当? やったー。約束だよ」
「ああ」
ふぅ……そこそこそ焦ったけど、これならなんとかなりそうだな。




