では、今日もトマトジュースで我慢しよう
最近、夜道を歩いていると背後から何かに血を吸われる事件が起きている。今のところ死者は出ていない。まあ、少量とはいえ自分の血を何かに吸われるのは気持ちのいいものではない。たまに快楽を覚える者もいるらしいが。
「被害者は赤子から二十代後半までの男女で全員首筋に小さな穴がある、か。えっと、違うと思うけど、お前の仕業じゃないよな? アリシア」
「大抵の吸血鬼はそんなことしなくても眷属からたんまり血をもらえるから人を襲う必要がない。というか、我はお前の血以外興味がない。ということでそろそろお前の血を吸わせてくれ」
「断る」
「なぜだ! なぜレイナには吸わせて我には吸わせてくれないのだ!!」
「レイナのは事故だ」
「そうか。では、今日もトマトジュースで我慢しよう」
「ありがとう。あー、それから僕の血が普通の血になったらいくらでも吸っていいぞ」
「ほう、それは楽しみだな。では、我は少し出かけてくる」
「大丈夫だと思うが油断するなよ」
「ああ」
アリシア・ブラッドドレインはそう言うとリビングから出ていった。
「ねえ、お兄ちゃん」
「なんだ?」
「今回の事件、アリシアちゃんは犯人じゃないんだよね?」
「さて、どうだろうな。トマトジュースで吸血衝動を抑制しているとはいえ、そのへんの人の血を吸いたくなる日もあるかもしれないから今のところ白黒はっきりさせるのは難しいな」
「そっかー。でも、多分アリシアちゃんはやってないよ」
「どうしてそう思うんだ?」
「アリシアちゃんはお兄ちゃん一筋だからだよ」
「愛で本能をどうにかできるのか?」
「それは愛の大きさ次第じゃないかな」
「そうか」
「うん」
「えっと、とりあえず事件が発生しやすい場所まで行くか」
「あっ、私も行く」
「そうか。なら、夏樹は家から一番近い場所に行ってくれ」
「どうして?」
「明日も学校があるからだ」
「あー、そっか。早く寝ないと明日辛いもんね」
「そういうことだ。えっと、じゃあ、僕はここに行くから鬼姫と童子はその周辺を頼む」
僕はテーブルにある地図を指差しながら二人にそう言った。
「はーい」
「承知しました」
「よし、じゃあ、何かあったら連絡してくれ。手段はなんでもいいから」
「はーい」
「りょーかい」
「かしこまりました」
「よし、じゃあ、行こうか」
アリシアが犯人じゃないといいな……。




