下戸
うーん、困ったなー。僕の霊力だけじゃこの滝をコピーするのは無理だ。僕の命を少し削ればなんとかなるけど、幸(那智山付近に住んでいる水の妖精)さんがそれを知ったら全力で止めるだろうなー。
「どうした? 小僧。やはり滝をもう一つ作るのは無理か?」
「あー、ちょっと今考えごとしてるので話しかけないでください」
「小僧、わしは一応お前に加護を与えた龍神の祖父なのだぞ? わしが少し力を使えばお前なんぞ一瞬で」
「黙れ! 下戸!!」
「な、なぜだ! なぜそれを知っている!?」
「当然です! 水の妖精は液体に関することなら何でも知っているんですから!! この情報を世界中にばら撒かれたくなかったらしばらく黙っててください!!」
「は、はい……」
「すごいですね、幸さん。龍神様に意見するなんて」
「龍は元々鯉ですからね。龍になろうと神になろうと水の妖精にとってはイメチェンした鯉にしか見えません」
「なるほど。だから、龍神様はあなたには逆らえないのですね」
「まあ、そうですね。えっと、もしかして滝を作るのに必要な霊力が足りない感じですか?」
「そんな感じです。いやあ、やっぱり歴史があるものをコピーするのは骨が折れますね」
「でしょうね。えっと、私で良ければ力になりますけど、どうします?」
「依頼人に何かを求めるのはうちの部の理念というかポリシーに反するので気持ちだけ受け取っておきます」
「そうですか。分かりました。あっ、でも、自分の命を削るのはダメですよ」
「分かってますよ。まあ、最悪それをやるしかないなーと考えていますが」
「ダメです! 命は大事にしてください!!」
「はーい」
うーん、でも、今のままじゃどうにもならないんだよなー。今すぐ霊力量が半端ない人、ここに来てくれないかなー。
「ねえ、お兄ちゃん。もしかして私たちの力が必要な感じ?」
「そうそう、夏樹や童子がいればなんとか……って、なんで夏樹がここにいるんだ!?」
「少し先の未来からやってきた私たちの娘的な存在がお兄ちゃんのことすっごく心配してたから来たんだよー。ねー?」
「え、ええ、まあ、そうです」
「ちなみに私もいます」
「なんだ、童子も来たのか」
「はい。いけませんか?」
「いや、来てくれてありがとう。さすが僕の師匠の一人だ」
「褒めても何も出ませんよ」
「はいはい。えっと、さっそくだけど、みんなの霊力を使ってもいいかな?」
「いいよー」
「いいですよ」
「もちろんです」
「ありがとう。じゃあ、僕の背中に手を置いてくれ」
「分かったー」
「分かりました」
「はい、分かりました」
いきなりコピーするとごっそり霊力持っていかれるから少しずつコピーしよう。
「よし、じゃあ、始めるぞ」
「はーい」
「はい」
「いつでもどうぞ」
「よし、じゃあ、スタート」
僕が滝をコピーし始めるとみんなの様子が少しおかしくなった。みんな、大丈夫かなー?
「あー、お兄ちゃんに霊力吸われるの気持ちいい。お兄ちゃん、もっといっぱい吸っていいよー」
「お、お父さん、私今とても敏感になってるのでなるべく早く終わらせてください!!」
「私たちは大丈夫ですから遠慮しないでもっと吸ってください!!」
うーん、じゃあ、もう少し吸引力を強めるか。
「分かった。じゃあ、少し強くするぞ。あっ、一応、吸引が終わるまで無音にするから声我慢しなくていいぞ」
「分かったー」
「わ、分かりました!」
「は、はい、分かりました」
夏樹(僕の実の妹)は余裕そうだけど、他の二人はちょっと辛そうだな。よし、なるべく早く終わらせよう。
「じゃあ、強くするぞ。それっ」
無音にしておいて正解だった。事情を知らない人がその光景を見たらすごく勘違いされそうな状態になったからだ。
「みんな、ありがとう。みんなのおかげでなんとかコピーできたよ」
「どういたしまして」
「う、うん」
「ど、どういたしまして」
「龍神様ー、ここから少し離れた場所に設置するのでついてきてくださーい」
「わしに命令するな!!」
「……龍神様は下戸らしいですよー」
「承知した!!」
「ありがとうございます。幸さん」
「いえいえ、どういたしまして」
「じゃあ、ついてきてください」
「ああ」
数日後、幸さんはすっかり元気になった。いやあ、良かった良かった。




