文字使いの卵
那智山にある滝の水の毎日ガブガブ飲んでいるのは僕に加護を与えた龍神の祖父だった。
「えーっと、どうしてここの水だけ毎日飲んでるんですか?」
「わしはここの水が好きじゃ! 以上!!」
「他の水じゃダメなんですか?」
「霊力が宿っている水ならなんでもいいが、わしは水にはうるさいぞー」
「なるほど。では、あなたが毎日飲む水の量を教えてください」
「そんなもん知らん」
「そうですか。では、この滝をもう一つ作りますね」
「小僧、出来もしないようなことを軽々しく口にするものではないぞ」
「僕は基本的にできないことはしませんよ、できることしかできないので」
「ほう、そうか。では、やってみせろ。もちろん今ここでだ」
「分かりました」
「雅人さん、無茶しないでください。こんなのに付き合う必要ありません」
「いや、ちょっと文字の力を使うだけだから大丈夫だよ」
「文字の力って……まさか、あなたは文字使いなのですか!?」
「うーん、正確には『文字使いの卵』だね」
「卵、ですか」
「うん。だから、使える文字は数十種類くらいしかないんだよ」
「それだけ使えれば十分ですよ! どうしてここに来るまでに話してくれなかったんですか!!」
「いや、師匠はほぼ全て使えるから、僕なんかまだまだだなーって」
「そう、ですか。えっと、滝をもう一つ作るそうですが、そんなこと可能なのですか?」
「できるけど、ちょっと大変かな」
「大変?」
「文字の力は文字の画数や文字の数だけでなく範囲、威力、質、量によって必要な霊力量が変わるからね、もし必要な霊力が足りなかったら」
「足りないとどうなるのですか?」
「足りない分は命を消費しないと使えないね」
「そ、そんな! そんなの絶対おかしいです!!」
「え? そうかな?」
「そうですよ! あなたの命は一つしかないんですからどんなものよりも大切にしてください!!」
「わ、分かった。でも、僕はもうよっぽどのことがない限り死なないからきっと大丈夫だよ」
「本当、ですか?」
「おそらく、きっと、多分……」
「不安、なんですね」
「まあね。でも、多分なんとかなるよ」
彼は苦笑しながらそう言った。
「……自分の命をもっと大切にしてください」
「いのちだいじに……か。まあ、できるところまでやってみるよ」
「はい」
「話は終わったか?」
「まあね」
「そうか。では、始めろ」
「はい」




