そんな面倒なことはしません
見知らぬ美幼女は僕の顔を見ると嬉しそうにこう言った。
「はじめまして。私は少し先の未来からやってきたあなたの娘です」
「え? 娘? しかも少し先の未来からやってきただって?」
「はい、そうです。まあ、それが何年後なのかは言えませんが」
「そ、そうか。で? 君はここに何しに来たんだ?」
「あなたに会いに来た、ただそれだけです」
「え? それだけ? 過去を変えて未来を良くするためとかじゃないのか?」
「そんな面倒なことはしません。それより早く私を抱きしめてください。色々あって未来のあなたとはあまり会えていませんから」
「そうなのか?」
「はい、そうです。まあ、一時間に一回のペースで戻ってきますが」
「結構会ってるじゃないか」
「子どもにとってはそうではないんですよ。まあ、それはともかく早く私を抱きしめてください、お父さん」
「あ、ああ」
僕が少し先の未来からやってきた自分の娘を抱きしめると彼女は急に泣き始めた。
「ちょ、なんで泣くんだよ。僕そんなに強く抱きしめてないぞ?」
「すみません。なんというか、すごく、懐かしくて」
「懐かしい? えっと、毎日会ってるんだよな?」
「うちには娘がたくさんいますからねー。必然的にあなたの取り合いになるんですよ」
「そうか。未来の僕も苦労してるんだな」
「ええ」
「ところで君の母親は誰なんだ?」
「それは知らない方がいいです。まあ、この家にいる誰かとだけ言っておきます」
「そうか。まあ、過去の僕が色々知っちゃうと色々まずいもんな」
「そうですね。まあ、私がここに来た時点でちょっと怪しいんですけどね」
「だろうなー。えっと、君はいつまでここにいるんだ? というか、ここまでどうやって来たんだ?」
「前者は私が満足するまでです。後者は……誰かさんにここまで飛ばしてもらいました」
「誰かさん?」
「はい、お人好しで頼りになる理想の人です」
「そうかー。未来にはそんなやつがいるのかー。いつか会ってみたいなー」
「会えますよ、きっと」
昔も今もお父さんはそんなに変わらないなー、色々と。
「だといいなー。あっ、そうだ。おなか空いてないか?」
「小腹が空きました」
「そうか。じゃあ、フレンチトーストでも作ろうか」
「え? いいんですか? せっかくの休日なのに」
「いいんだよ、僕は誰かのために動いてる方が性に合ってるから。ということで、今からリビングに行くけど、君も一緒に来るか?」
「はい、行きます」
「そうか。じゃあ、そろそろ離れてくれ」
「おんぶ……」
「え?」
「おんぶか抱っこしてください。今あなたと離れたくないんです」
「そ、そうか。じゃあ、抱っこで」
「ありがとうございます、お父さん♡」
「お、おう」
見た目は夏樹(僕の実の妹)だけど、性格は姫凛(僕と凛の娘)っぽいな。というか、この子は今何歳なんだろう。うーん、まあ、いいか。
私の見た目が幼いのは私の母親の影響だということは黙っておこう。




