なあに? お兄ちゃん
夏樹(僕の実の妹)のそっくりさんは本当に何も覚えていなかった。まあ、主に自分に関する記憶がないのだが。
「ねえ、君とよく似た女の子の話があるんだけだ、聞きたい?」
「え? あー、うん、聞きたい」
「よし、じゃあ、まず彼女との出会いの話からしようか」
僕が夏樹の話をしていると彼女はどこか懐かしそうにうんうんと頷いていた。
「君、もしかして誰かの妹だったりする?」
「どうだったかな。でも、あなたによく似た人を私は知っているような気がする。覚えてないけど」
「そうか。その人とまた会えるといいな」
「……会えないよ」
「え?」
「だって、その人は……もうこの世にいないんだから」
彼女は白い長髪で僕を拘束しようとしたが、黒い長髪に妨害された。
「良かった! 間に合った!!」
「夏樹! お前いったい今までどこに」
「私の邪魔を……するなああああああああああああああ!!」
「あんたに何があってどうしてお兄ちゃんと自分の記憶をほとんど封印したのか分からないけど、あんたも私なら自分の心臓の半分が誰のものなのか思い出しなさいよ!!」
「はっ……! そうだ……私の心臓の半分はお兄ちゃんのもの。つまり、文字の力で無にされたお兄ちゃんを蘇らせることができる!!」
「はぁ……まったく、あんたが生きてる時点で察しなさいよ」
「ごめん。お兄ちゃんがいなくなったショックで頭がどうかしてた。というか、無になる直前にお兄ちゃんが笑ってたのはそういう意味だったのかな?」
「詳しいことは知らないけど、まあ、そうなんじゃないの?」
「そうか。そうだよね、私のお兄ちゃんがあんな簡単にやられるわけないもんね」
「よかったわね、なんとかなりそうで。でも、いきなり私のお兄ちゃんを呼ばないでよ。探すの面倒なんだから」
「ごめん。なんか無意識のうちに私の髪が呼んでたみたい」
「そう。まあ、こういうのはこれっきりにしてよね」
「うん、分かった」
「な、なあ、夏樹」
『なあに? お兄ちゃん』
あー、そうか。今ここには妹が二人いるんだよな。
「えっと、異世界の夏樹」
「なあに?」
「僕がこの世界に呼ばれた理由は何なんだ?」
「私、お兄ちゃんがいなくなったショックで私以外の生命体全部消しちゃったみたいだからきっと話し相手が欲しかったんだと思う」
「そうか。ありがとう。あっ、君のお兄さん一人で復活できそうか?」
「うん、大丈夫」
「そうか。なら、良かった。じゃあ、そろそろ帰るか」
「そうだねー」
「あ、あの!」
「ん? なんだ?」
「え、えっと、最後に抱きしめてもらっていいですか?」
「え?」
「いや、あなたに会うことは多分もうないだろうから……あっ、嫌だったら別にいいです」
「僕は別に嫌じゃないよ」
「えっと、もう一人の私はどう?」
「正直、ちょっと嫌だけど……まあ、今回は特別に許してあげる」
「ありがとう! もう一人の私!! えっと、じゃあ、よろしくお願いします」
「ああ」
僕が彼女を抱きしめると彼女は嬉しそうに笑った。
「じゃあな」
「元気でねー」
「はい! 本当にありがとうございました! お二人ともお元気で!!」
「ああ」
「うん!」
僕たちが元の世界に戻る直前、妹たちは元の世界の夏樹が出てきた穴に自分たちの髪を一本投げ入れた。すると、それはお互いの体内に侵入した。あー、なるほど。これならまた会えるな。いや、待て。じゃあ、さっきのハグは何だったんだ? うーん、まあ、いいか。




