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メールだよ! お兄ちゃん!!

 解剖したい。ああ、解剖したい。誰でもいいから解剖させて。このままだと私は……。


「おい、雅人まさと。私たちの前方を歩いているメスの様子がおかしいぞ」


「え? あー、ホントだ。たしかに様子がおかしいな。というか、今にも倒れそうだ。教えてくれてありがとう、ラッキー」


「どういたしまして」


 僕は様子がおかしい女性に声をかけることにした。その時、夏樹なつき(僕の実の妹)は少し嫌な顔をしていた。なぜだろう?


「あの、大丈夫ですか?」


「や、やめて……私に……近づかないで!!」


「え?」


 彼女は何かに怯えている。なぜだろう、なんとなく他者ではなく自分の中にいる何かに怯えているように思えてならない。僕も似たようなものだからかな?


「あ……ダメ……出てこないで……お願いだから……!!」


「やなこった。さぁ、早く俺を楽しませろ!!」


「お兄ちゃん! 危ない!!」


 夏樹なつきが自身の黒い長髪で僕を拘束すると後方に下げた。


「ありがとう、夏樹なつき。助かったよ」


「どういたしまして。それよりあいつメス持ってるよ。通報した方がいいんじゃない?」


「残念だけど、これは妖怪絡みの事件だから警察は動いてくれないよ」


「どういうこと? あいつ、妖怪なの?」


「いや、彼女は妖怪じゃない。ただ、メスの解剖したい衝動が彼女をおかしくさせているんだ」


「なるほど。メスがメスのせいでおかしくなっているのか」


「ラッキー、今のはわざとか?」


「え? あー、いや、たまたまだ。それより早くなんとかしないとあのメスはもうすぐ死ぬぞ」


「何? それは本当か? ラッキー」


「ああ、本当だ。なんというか、私には命の色が見えるのだよ。あー、また少し色が薄くなった。おそらくあれはメスの命を使って解剖したいという欲を満たしているのだろう」


「そうか。じゃあ、ゴミ捨て場に転送しよう」


「何?」


「我慢は体に毒だから解剖しても怒られないものを解剖させよう」


「それは解剖ではなく解体ではないのか?」


「別にいいんだよ。あれはそこまで考えてないから」


「そういうものなのか?」


「そういうものだよ。よし、じゃあ、転送するか」


 僕たちは彼女と共にゴミがたくさんある場所にやってきた。


「ここにあるのは遅かれ早かれ土に埋められるゴミたちだ。だから、思う存分解剖していいぞ」


「マジか! そんじゃあ、久しぶりにやるかー!!」


「ふむ、雅人まさとはなかなかいい目を持っているな」


「そうかな?」


「ああ、そうだ。それにしてもずいぶんと切れ味のいいメスだな。まるで次元を切り裂いているようだ」


「たまにあるよ。次元を切り裂ける刃物」


「そうか。で? 今回はハズレか? 当たりか?」


「うーん、今回はハズレだな」


「そうなのか?」


「ああ。ほら、断面はきれいだけど、たまに部品に当たって微妙にズレてるでしょ? だから、ハズレだ」


「そうなのかー。勉強になるなー。で? あれはいつになったら満足するんだ?」


「満足するまでだろうな」


「そうかー」


 メスが満足したのは夕日が沈み始めた頃だった。

 後日、彼女からお礼の品と手紙が届いた。どうも彼女の実父が医者だったらしく現役時代に愛用していたメスがなぜか娘である彼女に憑依し、たまに何かを解剖しなければならない体になってしまったらしい。しかも欲が満たされないと代わりに彼女の生命力を奪うというのだからかなり厄介な付喪神だった。しかし、あの後色んなものを切ってみた動画を挙げ始めたことで一部の芸術家や切られたい層にそこそこ受けることが判明したため、これからは定期的に彼女の欲を発散できそうだとのこと。

 いやあ、一時はどうなるかと思ったけど、どうにかなって良かった良かった。


「メールだよ! お兄ちゃん!! メールだよ! お兄ちゃん!! メールだよ! お兄ちゃん!!」


 おっ、どうやら、うちの部に依頼のメールが来たようだ。えーっと、少し前から彼氏がおかしくなってしまいました。原因は分かっていますが、詳細は直接会ってお話ししたいです、か。まあ、うちの部員は全員優秀だからどうにかしてくれるだろう。ん? ちょっと待て。まだ続きがあるぞ。

 追記、女の妖怪絡みなので専門の方に相談したいです。ちなみに私は中学二年生であなたのファンでもあります。

 あっ、うん、なんか指名されてるわ、これ。おかしいなー。そんなに目立ったことはしてないつもりなんだけどなー。女子のネットワークを使って調べたのかなー? まあ、僕のファンみたいだから断ったら多分逆恨みされるだろうなー。

 承知しました、都合のいい日程があれば教えてください。


「メールだよ! お兄ちゃん!! メールだよ! お兄ちゃん!! メールだよ! お兄ちゃん!!」


 返信早いな。えーっと、明日の放課後、百鬼部の部室で待ってます♡

 なんか相談じゃなくて告白されそうな文章だな。まあ、いいか。

 承知しました、夜更かしせずに来てくださいね。

 よし、これでいいだろう。さてと、漫画でも読むか。

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