美子
そういえば、MKの本名って何なんだろう。僕はソファに横になっているMKの元まで向かうと彼女に話しかけた。
「なあ、MK。君の本名って何なんだ?」
「分からない。名前があるのかも分からない。けれど、孤児院にいた時は『みこ』と呼ばれていた」
「みこ?」
「ああ、美しい子と書いて『美子』だ」
「そっか。じゃあ、今日から美子って呼んでいいか?」
「ああ」
「そっか。じゃあ、美子。今、童子が君の部屋を作ってるからそれまでゆっくりしてていいぞ。じゃあ、僕はこれで」
僕がその場から離れようとすると彼女は僕の手を掴んだ。
「待て。行くな」
「いや、ちょっと水を飲みに行くだけなんだけど」
「そ、そうか。なら、できるだけ早く戻ってきてくれ。私はお前がそばにいてくれないとなぜかものすごく不安になるから」
「そうか。それは大変だな。分かった。君の言う通りにするよ」
「ありがとう、雅人」
彼女はそう言うとゆっくり僕の手を離した。本当はもう少し手を繋いでいたかったのかな? まあ、いいや。水飲みに行こう。
*
「女王は一人いればいい」
先に女王になった方が女王になれる。女王になれなかったものは消される。生まれて間もない私は幸か不幸か消される側になった。
「さようなら」
それを聞いた時、あー私は今から消されるのかと悟った。けれど、巨大な黒い影に家を破壊されたため、私は消されずに済んだ。
私はそこから逃げた。そこにいたら危ないと思ったからだ。逃げて、逃げて、逃げて、ひたすら逃げた。疲労のことなんて考えずに逃げた。必死に逃げた。私のことを誰も知らない場所に辿り着くまで逃げた。ずいぶん遠くまで来た。ここはいったいどこだろう。私は街灯に照らされながら夜道を歩く人々に話しかけた。すると、全員私に恐怖を抱きながら逃げていった。理由は甘い香りがする場所にある透明な壁を見た時、分かった。なるほど。そういうことか。よし、では、しばらく身を隠そう。どこかにいい寝床はないだろうか。




