ただいま!!
僕を殺しにきた暗殺者のマスターが暗殺者を迎えに来たのは夜の八時頃だった。
「マスター、申し訳ありません。私は任務を完遂できませんでした」
白衣を着ている中年男性は彼女の体が完治していることに気づくと玄関にいる僕に話しかけた。
「君が雅人くんだね?」
「え? あー、はい、そうですけど」
「そうか。では、単刀直入に言わせてもらう。私と共に世界征服をしないか?」
「マスター! 彼は危険です! 彼を制御することは不可能です!!」
「MK、少し黙っていなさい」
「は、はい……」
「で? どうかな? 私としてはぜひ君を仲間にしたいのだが」
「すみません。僕、正直そういうの興味ないんです。それに僕がここからいなくなったら困る人が結構いるんです。なのでお断りします」
「そうか。分かった。では、君にはここで死んでもらおう」
彼が暗殺者の鼻を指で押すと暗殺者の目が赤くなった。
「マスター……これはいったいどういう……」
「なあに自爆プログラムを起動しただけだよ。君はあと五分ほどでこの世からいなくなる」
「……え?」
「MK、君は所詮私の駒の一つなのだよ。あー、でも、一応感謝はしているよ。君の戦闘データのおかげで君よりもっと強い兵器が作れるのだから」
「私が……兵器?」
「ああ、そうだとも。世界と渡り合えるほどの殺戮マシーン。それが君だ」
「そ、そんな……」
「MK、どうして君はそんな悲しい顔をしているんだ? 孤児院にいた君を保護したのは誰だ? 今まで面倒を見てやったのは誰だ? 君に力を与えたのは誰だ?」
「マスター、です」
「そう、私だ! 君は私のおかげで今日まで生きてこられたんだ! 君は私なしでは生きられない! そうだろう? MK」
「はい……」
「よし、では、私のために死んでくれ。それが君のラストミッションだ」
「……イエス、マイ、マスター」
「君はそれでいいのか?」
「……え?」
「君の人生の主役は君だ。こんなやつの言うことなんか聞く必要ない」
「耳を貸すな! MK!!」
「ここには君のような存在がたくさんいる。だから、君がまだ生きたいのなら僕の手を取ってくれ」
「わ、私は……」
彼女は僕が彼女に差し出した手をじっと見つめている。誰がどう見てもここが彼女の分岐点。生きるも死ぬも君次第。さぁ、どうする?
「MK! 君は賢い! 今自分が何をすればいいのか私が言わなくても分かるだろう!!」
「わた、しは……私は……」
「そんなに深く考えなくていいよ。どっちにしろ、君は助かるんだから」
「え?」
「君はいったい何を言っているんだ!! MKはもう助からない!! 今日ここで死ぬ運命なんだ!!」
「さて、それはどうかな。ねえ、君は生きたい? それとも死にたい?」
「私は……」
マスターと過ごした日々より初対面の彼と過ごした時間の方がなんとなく良かったような気がする。なぜだろう。彼が私という一人の人間をしっかり見てくれているからかな? それとも私が彼を必要としているからかな? いや、そんなのどっちだっていい。私の人生の主役は『私』なのだから。
「私は……生きたい……だから、助けて……雅人」
彼女はそう言いながら僕の手を握った。
「分かった。童子、彼女のこと頼んだよ」
僕は彼女の手を離すと僕たちの敵に目を向けた。
「はい。では、手始めに彼女の自爆プログラムを抹消します」
「なっ……! くそ! なぜだ……なぜだ! MK!! なぜ私の言うことを聞かなかったんだ!!」
「それはあんたがクズだからだよ。あー、それと彼女はあんたのこと結構尊敬してるよ。いや、してた……だな」
「黙れええええええええええええええええええええええ!!」
「……さようなら」
「う、うわああああああああああああああああああああ!!」
僕は文字の力で彼を誰もいない世界に転送した。僕たちが住んでいるこの世界に戻るには死ぬ以外に方法はない。
「終わったな」
「終わりましたね」
「……終わったの?」
「うん、終わったよ。ということで今日からここが君の家だよ」
「ここが……私の……家……じゃ、じゃあ、その、えっと、今日からお世話になります」
「うーんと、ここは今日から君の家だから『ただいま』でいいんだよ」
僕がそう言うと彼女はニッコリ笑った。
「ただいま!!」
「おかえり」




