もういいんじゃないか? 誰かを殺すの
ん? なんか空が急に暗くなったな。
「お兄さん、私が合図したらジャンプして」
「え? あー、うん、分かった」
「……三、二、一。今!!」
夕日ちゃん(絶命させる係)の合図の後、僕はその場でジャンプした。すると、どこからともなく鎖のようなものが飛んできて僕の足の下を通過した。
「えーっと、今のはいったい……」
「お兄さんはここにいて。朝日ちゃん! お兄さんのこと守ってあげて」
「分かった!!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! いったい何が起きてるんだ? 説明してくれ」
「ごめんね、お兄さん。今はそんな余裕ないの。だから、お願い。しばらくここにいて」
「わ、分かった」
「夕日ちゃん、一人で倒せそう?」
「敵の位置は分かってるから多分大丈夫。でも、私にもしものことがあったらお兄さんを『安全地帯』まで案内して」
「分かった!」
安全地帯? そんなのこの町にあったかなー?
「じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃい! 気をつけてね!!」
「うん」
夕日ちゃんはそう言うと一瞬でその場からいなくなった。
*
山中。
おかしい。なぜやつは生命分裂鎖を躱せたんだ? いや、それよりなぜやつらがこの町にいるんだ?
「ねえ、そこの忍者さん。ちょっといいかなー?」
「お、お前は!! 死神!!」
「私の姿がはっきり見えてるってことは君人間じゃないね。まあ、そんなことよりどうしてお兄さんを狙ったの?」
「やつは危険だ! 一刻も早く排除しなければこの星は滅ぶ!! これが理由だ!!」
「ふーん、そうなんだ。でも、ダメだよ。お兄さんを殺していいのは私だけなんだから」
「そうか。なら、今すぐあいつを殺してきてくれ。そうすれば俺たちは今後一切お前たちの前に姿を現さない」
「はぁ……分かってないなー。まだその時じゃないんだよー。どうして完全に熟していない果実を収穫しようとするのかなー」
「火種は早めに消しておいた方がいいだろう!!」
「いや、だからそうすると楽しみが一つ減っちゃうんだよ」
「楽しみ? 楽しみだと? その火種がこの星を終わらせる状態になるまで待てということか!!」
「うん、そうだよ。というか、私はこの星の終末になんか興味ないよ」
「何?」
「私はね、お兄さんをこの手で殺したいんだよ。自分の力なんて使わずにね」
「お前、頭どうかしてるぞ」
「褒め言葉として受け取っておくよ。よし、じゃあ……そろそろ終わらせようか」
「ま、待て! 俺はどうなってもいいから家族や仲間たちには手を出さないでくれ!!」
「そうやってその場凌ぎの言葉を言えばなんとかなると思ってるの? 残念だけど、私は君より長く生きてるから君がお兄さんに危害を加えようとした時点で君の人生はもう終わってるんだよ。もちろん君と関わった人たちの人生もね」
「や、やめろ! やめてくれ!! そんなことしたらもうすぐ産まれてくるあいつが!!」
「だから何? 自分の子どもには罪はないから殺さないでくれ、そう言いたいの? 甘い、甘いねー。いやあ、甘すぎるよー。というか、君さっき言ってたよね? 火種は早めに消しておいた方がいいって!!」
「や、やめろ……やめろー!!」
死ぬのは怖いよね。でも、これが私の仕事なんだ。ごめんね。
「……さよなら」
「夕日ちゃん」
「……なんでお兄さんがここにいるの? 私に殺されたいの?」
「殺されるのは嫌だな。でも、もうそろそろいいんじゃないか?」
「何が?」
「もういいんじゃないか? 誰かを殺すの」
「ダメだよ、そんなの。これが私の仕事なんだから」
「毎日仕事ばっかりしてると休みの日に何したらいいのか分からなくなるぞ」
「……それを私に伝えたくてここまで来たの?」
「ああ」
「そう。じゃあ、私の代わりにお兄さんがこいつを殺してよ」
「ああ、いいぞ」
「……え?」
「ただし、僕のやり方でだ。値真」
「はーい! それー!!」
「金はここにいくらでもある。好きなだけ持って帰れ」
「い、いいのか?」
「ただし! 今後一切悪事を働くな。もし約束を破ったらここにあるお金は全て白紙になる。じゃあ、僕はこれで失礼する」
「あ、ありがとう! お前は命の恩人だ!!」
「そうか? まあ、お前がそう思いたいのならそれでいいが。じゃ」
「あっ! ちょ、ちょっと待ってよ! お兄さん! というか、誰も殺してないじゃん!!」
「殺しただろう? あいつの忍者としての生を」
「え? あー、まあ、それはそうだけど……そうなんだけど、分かりにくいよ! お兄さん!!」
「そうかな?」
「そうだよー!!」




