さぁ? いつからでしょう
スーパーで買い物を済ませた後、僕たちは家に向かって歩き始めた。
「なあ」
「なあに? お兄さん」
「金霊はともかく君はもう実家に帰った方がいいんじゃないか?」
「私、生まれた時から家なんてないよ」
「え? そうなのか?」
「うん、そうだよ」
「そうか。じゃあ、今までどうしてたんだ?」
「廃墟とか公園とか空き地で寝てたよ」
「そうか。よく補導されなかったな」
「そんなのされたことないよ。だって、人間はみんな私を黒い影として認識してるんだから」
「あー、まあ、夜にそんなの見たら誰だって近づきたくないよな。ところで今はどんな風に見えてるんだ?」
「さぁね。ただ日中は陽炎みたいにいるのかいないのかよく分からない状態になってるみたいだよ」
「なんでそんなこと知ってるんだ?」
「私の半身がそう言ってたからだよ」
「半身?」
「あっ! いたー! 夕日ちゃん、こんなところで何してるの?」
僕たちの目の前に現れたのは白い着物を着ている少女だった。
「見て分からない? お兄さんとデートしてるんだよ」
「デート? 夕日ちゃん、年下が好きなの?」
「基本的に人間は苦手だから無理。でも、このお兄さんは違う。なんとなく私と似ている気がするんだよ」
「ふーん、そうなんだー」
「あー、えーっと、君はいったい……」
「え? 私? 私ねー、朝日だよー」
「そうか。朝日ちゃんか。えっと、ちなみに二人はどういう関係なのかな?」
「半身だよ。元々一つの個体だったけど、お互いの使命を果たすのに体が二つ必要になったから二人になったんだよ」
「朝日ちゃん、余計なこと言わなくていいよ」
「えー、なんでー? 夕日ちゃん、この人のこと好きなんでしょ? もっと自分のことアピールしないと誰かに先越されちゃうよー」
「そんなことにはならないよ。邪魔者は全員殺すから」
「そんなことしちゃダメだよー。正々堂々真正面からぶつからないと」
「朝日ちゃんって昔からそうだよね。みんなから信仰されてて毎日楽しそうでストレスなんて感じてなさそう」
「そうかな? 私は昔から夕日ちゃんみたいに一人で気楽に生きていきたいって思ってるよ。それにね、幸せな時にもストレスって感じるんだよ」
「はぁ……私やっぱり朝日ちゃんのこと好きにも嫌いにもなれないよ」
「そうなの? 私は大好きだよ。夕日ちゃんのこと」
えっと、僕ここにいないとダメかな?
「それで? これからどうするの? その人殺すの?」
「殺さないよ。まあ、誰かに殺されそうになったら殺すけど」
「え? ちょ、なんで殺すんだよ」
「うーんとねー、最愛の人が誰かに殺されるくらいなら自分で殺した方がマシだから、かな?」
「そうか。じゃあ、誰かに殺されないように気をつけるよ」
「そうしてもらえると助かるよ。あっ、それから私今日からお兄さんの家に居候するからよろしく」
「え? なんでそうなるんだ?」
「お兄さんはこんな『か弱い』女の子を寒空に放置するような人じゃないよね?」
「か弱いって、君ね……」
「そろそろ名前で呼んでほしいなー」
「え? あー、じゃあ、夕日ちゃん」
「なあに?」
「勘弁してください」
「お兄さんに拒否権はありませーん」
「えー、そんなー」
「あっ、ついでに私もよろしくお願いします!」
「朝日ちゃんまで……。というか、二人の使命っていったい何なんだ? 命を管理してるのか?」
「朝日ちゃんは生のエネルギーを使って生命誕生を補助する存在で」
「夕日ちゃんは死のエネルギーを使って生命を絶命させる存在だよ」
「それ、いつからやってるんだ?」
『さぁ? いつからでしょう』
「なんだよ、それー」
というか、よくこの状況で僕の頭の上で寝られるな。すごいな、値真(金霊)。




