私の名前は夕日です
僕は今、黒い着物を着ている少女と手を繋いで歩いている。彼女は死のエネルギーから生まれた存在。故に彼女に敵意や殺意を向けることは死を意味する。
「ねえ、お兄さん」
「な、何かな?」
「私ってさ友達いないんだよ」
「えっと、それは今まで友達になってくれる人がいなかったってことか?」
「違うよ。私が友達になろうとすると、みーんな死んじゃうから私には友達が一生できないんだよ」
「そうかな? この世にはたくさんの人間や妖怪がいるんだから、そのうち君の友達になってくれる存在が現れるよ」
「そんなの一生現れないよ。だって、私がほんの少し私のことを教えようとするとみんなすぐ死んじゃうんだから」
「うーん、それは多分あれだ。あいさつするのと同時に相手の顔面を殴ってるからうまくいかないんだよ」
「そう、なのかな? 別にそんなつもりはないんだけど」
この子、自分がどれだけ危険な存在なのか分かってないな。
「そうか。じゃあ、とりあえず自己紹介をしてみようか。あっ、相手にたくさんの死の記憶を見せるのはなしな」
「分かった。えっと、はじめまして。私の名前は夕日です。趣味は死について調べることで好きなものは死そのもので特技は誰かに死の記憶を見せることです」
「待て」
「ん? なあに?」
「今の自己紹介、誰かにしたことあるか?」
「あるよー。でも、なぜかこれを言うとみんな逃げていくんだよ。どうしてかな?」
どうしてって……まあ、この子の頭にはこの子にとって必要なものしか入っていないみたいだから、この子にとってこの自己紹介は普通なんだろうな。
「それはみんな少なからず死が怖いからだよ」
「なんで? みんないつか死ぬじゃん」
「そうだな。でも、そのいつかがいつなのかが分からないから怖いんだよ」
「そっかー」
「まあ、とにかくまずは自分を知るところから始めよう。好きな食べ物とかあるか?」
「好きな食べ物かー。うーん、目玉焼きかなー」
「へえ、なんでだ?」
「お月様みたいできれいだから」
「あー、なるほどなー。ちなみに目玉焼きには何をかけるんだ?」
「うーん、その時の気分で決めてるからこれっていうのはないなー」
「そうか」
それでいい。自分が知らないもしくは知っているけれど生きていくのにあまり必要ではない情報を少しずつ言葉に出していけば、きっといつかまともな自己紹介ができるようになる。まあ、それ以外にもやることはたくさんあるんだけどな。




