私は目のスペシャリストだからねー
深夜……百々目鬼家……。
あいつの部屋入るのいつぶりだろう。まあ、いいや。
「おーい、羅々ー。いるかー?」
「いるよー。入ってー」
「分かったー」
僕が幼馴染のいる部屋に入るとそこには無数の目が宙に浮いていた。ホントにフル稼働させてるんだな。
「で? お前、何やらかしたんだ?」
「うーん、まずどこから説明すればいいかなー。えっと、雅人のファンクラブがいくつもあるのは知ってる?」
「まあ、一応」
「そっか。でね、私そのクラブのサイトを作って管理してるんだよ」
「何? お前、まさか一人で何個も作ったのか?」
「まあねー。あっ、ちなみにそれらのサイトに広告はないよ」
「え? そうなのか? じゃあ、お前どうやって稼いでるんだ?」
「えっとねー、私の目の力を使えば、いつでも迷宮入りした事件の犯人や世界の謎なんかが丸分かりなんだけど、世の中には真実を隠したがる人たちがいるんだよねー。で、私は……というか百々目鬼財閥は代々真実を隠す代わりにそれに見合った報酬をもらってるんだよ。あっ、ちなみに誰かに話すと死んじゃう怪談話の正体は……」
「それ言ったらお前死ぬんじゃないのか?」
「分かってないなー。これはね、内容を最後まで言おうとしなければ死なないってのがキーなんだよ」
「そうか。で? お前は何をやらかしたんだ?」
「えっとねー、世界中に雅人の良さを発信しようとあらゆる言語で雅人の記事を書いたら」
「世界中の女性が雅人のこと好きになっちゃったんだよねー」
「お前、その記事に僕の写真載せただろ」
「うん、載せたよー」
「原因は確実にそれだな。まったく、なんてことしてくれたんだ。でも、まあ、お前ならいつかやると思ってたよ」
「いやあ、照れるなー」
「褒めてないぞ。で? 僕はどうすればいいんだ? このままだと世界中の女性がこの町に集まるんだろ?」
「そうなんだよー。だ・か・ら……雅人の力で国外にいる女性たちの脳内にある雅人の情報を全部削除してくれると助かるなー」
「はぁ……それだけでいいのか?」
「うん、いいよー」
「記事の方はいいのか?」
「大丈夫。記事は今消してるから」
「それだけだと他のSNSにアップしたり記事を印刷した上で金庫や体内に保管したり石や木なんかに念写されたものを削除できないぞ?」
「そこは私の腕の見せどころだよ。ほら、私っていつでもどこでも見たいものを見られるでしょ? でね、実はその逆もできるんだよ」
「他人が見たいものを見れなくするんだな」
「そういうこと。でも、それだけだと脳内にある情報は消えないから」
「僕の力でそれを消せばいいんだな」
「うん!!」
「でも、それだと現実にある紙やら石盤やらに書かれた情報は消えなくないか?」
「あっ、それなら大丈夫。私、目で見た情報を奪取できるから」
「お前、なんでもありだな」
「私は目のスペシャリストだからねー。ということで、ちゃちゃっと削除しちゃってくださーい」
「はぁ……次こんなことしたらデコピンするからな」
「ありがとう、雅人。大好き」
「はいはい」
僕は僕の情報が宇宙に拡散される前に座敷童子の童子から教わった文字の力を使って淡々と該当する女性たちの脳内から僕の情報を消し始めた。




