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私は何番目でもいいよ

 ギンちゃん(イソギンチャク娘)は風邪さえ引かなければそのへんにいる妖怪と大差ない。しかし、例の事件によって彼女は鬼姫ききと同じ厄災クラスの妖怪に認定されてしまった。まあ、風邪さえ引かなければ体内にある毒をコントロールできるらしいからよっぽどがない限り大丈夫だろう。


「せんせー、この、誰ー?」


「え? あー、その童子わらこセカンド。僕と座敷童子の童子わらこの娘みたいなものだよ」


「……え? じゃ、じゃあ、このは?」


「その姫凛きりんちゃん。僕とそこにいる狐っりんとの間にできた娘だ」


「へ、へえ、そうなんだー。じゃあ、このは?」


「その福与ふくよちゃん。僕とはじまりの座敷童子の娘だよ」


「そ、そんな……! 先生、まだ高校生なのに子どもが三人もいるの!?」


「いや、まあ、そうだけど。実はまだそういうことはしてないんだよ」


「え? そうなの? じゃあ、私先生のお嫁さんになるー!」


「……え?」


 その場にいる全員の目の色が変わっていく。いや、鬼姫きき、お前は僕の姉みたいなものだろ? というか、とらねえもなんでそんなに怒ってるんだよ。あんた、僕の従姉いとこだろ?


「おい、あんまり調子に乗るな。マリアナ海溝に沈めるぞ?」


 夏樹なつき(僕の実の妹)のひたいの血管が今にも破裂しそうなくらい浮き出ている。これはまずいな。完全に頭に血がのぼっている。


「ひゃー! 怖いよー! 先生、助けてー!!」


「ギンちゃん、あんまりみんなを刺激しないでくれ。ここにいるのはほとんど一人で世界征服できるくらい強いから」


「私は自分の気持ちを正直に言っただけだよー。それにほら、先生って私の体のこと隅々まで知ってるでしょ? だから」


「ねえ、お兄ちゃん。こいつ、今すぐ八つ裂きにしていい? いいよね?」


「いや、今のはほら、僕がギンちゃんの担当医だから」


「ねえ、先生。今日は診察しないの?」


「え? あー、うん、しないよ」


「えー、しないのー? じゃあ、今日は私が先生の診察するね」


「え? いや、いいよ別に。僕、どこも悪くないから」


「遠慮しなくていいよ。ほら、服脱いで」


「いや、だから」


「いい加減に……しろー!!」


「ひゃー!!」


 夏樹なつきの黒い長髪がギンちゃんを拘束する。


夏樹なつき! ギンちゃんはまだ子どもだ! 手荒れなことはするな!!」


「大丈夫。こいつの化けの皮を剥いだらすぐ解放するから」


「や、やめろー!!」


「ねえ、どうしてそんなに怒ってるの? あっ、そっか。あなたは先生の妹だから絶対に先生と結婚できないもんね。だから、先生と結婚できる私にやきもち焼いてるんだ」


「黙れ……」


「かわいそう。でも、大丈夫。この星にはたくさんオスがいるからきっといい人が見つかるよ」


「黙れー!!」


 夏樹なつきの髪が黒から銀色になる。どうしてわざわざ神の領域に達したのだろうか。理由はよく分からないが、しばらく様子を見よう。


「お前に何が分かる! 好きな人と結婚できないことを知った時の私の気持ちや好きな人にいつ愛想を尽かされるのか分からない私の今の現状を知らないくせに!! なんだ? お前は他人の心をめちゃくちゃにしたい悪魔みたいなやつなのか? どうなんだ? おい、聞いてるのか?」


「ふふふふふふ……あははははははは!!」


「な、何がおかしい!!」


「だって、夏樹なつきちゃんが言ってること全然意味分かんないんだもん。あっ、でも、これだけは分かるよ。夏樹なつきちゃんは先生の妹でいることが嫌なんでしょ?」


「は、はぁ? お前何を言って……」


「嘘つき。ホントは先生とあんなことやこんなことをしたいんでしょ? お互いの体の境目がどこなのか分からなくなるくらい先生と一つになりたいんでしょ?」


「ち、違う……!!」


「ふーん、そうなんだ。じゃあ、どうして夏樹なつきちゃんは泣いてるの? 何が悲しくて泣いてるの? 天がひっくり返っても絶対に変わらない悲惨な現実に絶望してるの?」


「そ、それは……」


「ねえ、夏樹なつきちゃん。自分の気持ちに正直になろうよ。じゃないと絶対後悔するよ?」


「わ、私は……私は……」


 ギンちゃんすごいな。夏樹なつきの弱いところを的確に狙ってる。よし、そろそろ終わらせよう。


夏樹なつき、とりあえずギンちゃんを解放してやれ」


「え? あー、うん、分かった」


「わーい! 自由だー! せんせー! 抱っこしてー」


「はいはい」


「わーい! やったー! 先生、大好きー! ねえ、ほっぺにチューしてもいい?」


「僕が嫌だと言ってもギンちゃんはチューするんだろう?」


「うん! するよー! チュー♡」


夏樹なつき


「な、なあに?」


「今回は相手が悪かったな」


「う、うん。でも、私……」


「分かってる。お前はそういうの全部知った上で僕と接してるんだよな?」


「うん、そうだよ」


「でも、まあ、あれだ。ほら、僕ってもう人間やめてるだろ? それに今のお前は神になりつつある。つまり」


「近い将来結婚できるかもしれない……でしょ?」


「ああ、そうだ。だからさ、そんな悲観的になるな。未来は誰にも分からないんだから」


「そう、だね。そう……だよね。ありがとう、お兄ちゃん。大好き」


「どういたしまして」


「うーんと、先生って夏樹なつきちゃんのこと愛してるの?」


「ああ、愛してるよ。この世界の誰よりも」


「お、お兄ちゃん♡」


「先生、一途なんだねー。でも、先生のそういうところ私好きだよ」


「ありがとう。でも、いいのか? ギンちゃんは僕と結婚したいんだろ? だったら」


「私は何番目でもいいよ。先生と結婚できるのなら……ね?」


「そっか。ギンちゃんはここにいるみんなのキューピットなんだね」


「ち、違うよ! あー、でも、そう言われるとそうかも?」


「なるほどー。そう考えるとさっきまでの言動もちょっと好感持てるな」


「か、勘違いしないで! 私は自分の気持ちを正直に言っただけだよ!」


「はいはい」


「そ、そんな目で私を見ないで! 私、そんなにいい子じゃないんだから!!」


「はいはい」

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