僕の妹は〇〇ですが何か問題ありますか？

……前言……撤回！！

　休日……昼……悪の組織のアジト……。

「おー、遅かったな、オーマ」

「お、おう……」

「どうした？　そんなに怯《おび》えて。デビルハンターに弱みでも握られたのか？」

「……そんなんじゃねえよ」

「じゃあ、何なんだ？」

「そ、それは……すまねえ！　ボス！　許してくれ！！」

「はぁ？　おいおい、急にどうし……」

「悪魔フィールド展開！　『滅びの間』！！」

「ちょ！　お前、何勝手にフィールド展開してんだよ！！　これじゃあ、アジトから出られないじゃねえか！！」

「すまねえ、ボス……。でも、こうするしかなかったんだ」

「どういうことだ？　お前、あの妖刀で雅人《まさと》を切ったんだろ？　なのに、どうしてこんなことを……」

「ご苦労様」

「ひ、ひぃ！！　で、出たー！！」

「ちょ！　待て！！　逃げるな！　って、な、なんで……なんでお前がここにいる！　黒髪腹黒女ー！！」

「ひどい名前……もう少しマシな名前にしなさいよ。で？　あんたがここのボス？」

「だ、だったらどうする？」

「……知りたい？」

「いや、遠慮しておくよ」

　だ、ダメだ……こいつに勝てる気がしねえ。くそ！　なんでだ！　なんでこいつがここにいるんだ！！　まさか、あいつ！　俺がこいつの情報を話してる時、ろくに聞いてなかったのか！　いや、今更後悔してもしょうがねえ。とりあえず、今はどうやったらここから離脱できるのか考えよう。

「な、なあ、俺と契約しないか？　この上級悪魔カステル様と契約すれば、一生遊んで暮らせる巨万の富が得られるぞ？」

「いらない」

「じゃ、じゃあ、この国の……いや、この世界のトップにしてやる！！」

「興味ない」

「じゃあ、この星のあらゆる芸術品は？」

「必要ない」

「な、なら、この星の最高級の服や化粧品は？」

「いらない」

「じゃあ、世界中の食材は？」

「私はその気になれば、たこ焼きみたいに一口でこの星ごと食べられるから別にいい」

「じゃ、じゃあ、不老不死にしてやろう」

「それはもう持ってるからいらない」

「じゃ、じゃあ、インキュバスをたくさん召喚してやろう。これなら失った兄の代わりになるだろ？」

「私ね、お兄ちゃん以外のオスに興味ないの。だから、そろそろ消すね」

　ま、まずい！　殺される！！

「か、加速！！」

「あっ、逃げた……」

　何なんだよ！　あいつは！！　全然契約できる気がしない！　まあ、そりゃそうか。あいつはここにいる悪魔全員の命を奪いに来たんだから。

「……っ！！　ギャー！！」

　やつの硬化した黒い長髪が俺の足の腱《けん》を切った。

「私から逃げられるとでも思ってるの？」

「ま、待て！　こんなことしてお前の死んだ兄貴は喜ぶのか？　あいつはお前に復讐してほしいと思っているのか？」

「黙れ。あと勝手に殺すな」

「な、何？　じゃ、じゃあ、今も生きてるっていうのか？　あの妖刀で切られたんだろ？」

「あれくらいじゃお兄ちゃんは死なないよ。さてと、じゃあ、そろそろ消すね」

「ま、待て！　お前の強い！　その強さ、世のため人のために使ってみないか？」

「世のため？　人のため？　そんなのどうでもいいよ。というか、いつでも滅んでいいよ。その方が生きやすくなるから」

　な、なんだ？　こいつ。自分と兄以外、どうでもいいのか？

「どうでもいいだと？　神にでもなったつもりか？」

「あれ？　知らないの？　私、神様だよ。ちょっとだけだけど」

「そうか。じゃあ、この神殺しの短剣で殺せるな！！」

　俺がそれをやつに向かって投げようとした時、それを持っている方の俺の手が宙を舞った。

「う……うわああああああああああああああああああ！！」

「うるさいなー。あんたの命は私が握ってるんだから余計なことしないで」

「く、くそー！　殺したいのならさっさと殺せ！！」

「すぐには殺さないよ。おい、オーマ。ちゃんと全員連れてきたか？」

「は、はい……」

「なっ……！　おい、オーマ。お前……」

「すまねえ、ボス……。でも、こうしないと地獄より恐ろしい地獄を味わいながら死ぬことになるんだ」

「そうか。たしかにそれは嫌だな」

「すまねえ……すまねえ……」

「ほら、とっとと整列して。じゃないと今すぐミンチにしちゃうよ」

『ひ、ひぃー！！』

「悪魔め！　お前、ろくな死に方しねえぞ！！」

「悪魔のあんたに言われたくないなー。まあ、別にどうでもいいけど」

　どうして……どうしてこんなことに……。

「はーい。それじゃあ、今から一人ずつ首を斬っていくからなるべく動かないようにしてねー！！」

「ひ、ひえー！！」

　下級悪魔が一人この場から逃げ出した。気持ちは分かるが、それは自分の首を自分で締めるのと同じだ。

「バカッ！　逃げるな！！」

「みんなー、よく見ててねー。今からあいつ『輪切り』にするからー」

　こいつ、かわいい顔でなんてこと言いやがる！！

「や、やめろ！　やめてくれー！！」

「夏樹《なつき》、もういい。やめてくれ。一度誰かを殺したら、もう殺す前には戻れないんだから」

　これであの予知夢のようにはならないはずだ。

「お兄ちゃん……」

「なっ……！　お前！　なんで生きて！！　あの時、たしかに俺様に切られたはずだ！　というか、どうやって俺様の悪魔フィールドから出たんだ！？」

「大悪魔オーマ。お前、僕のこと知らなさすぎるぞ」

「な、何！？」

「まず、僕は毎日やーちゃん……夜刀神《やとのかみ》の無限毒を摂取している。つまり、僕にはあらゆる毒や呪いに耐性があるからあの程度じゃ僕を殺せないんだよ。次にお前の悪魔フィールドよりキューちゃん……僕の空間の方が強い。つまり、お前の悪魔フィールドはキューちゃんにおやつになったから僕はお前の悪魔フィールドから出られたんだよ。最後に僕は再生スピードを調整できる。だから、客観視した時、肉体が腐っているように見せかけることが可能なんだよ。分かったか？」

「よく分からないが、お前が俺様より格上だってことは分かった。だが！　俺様はこの小娘が憎くてしょうがねえ！！　だから、こいつを一発殴らせろ！！」

「殴る？　僕の妹を僕の目の前で殴るのか？」

「ああ！　そうだ！！」

「そうか。じゃあ、そのあと僕はお前の首を落とす」

「……え？」

「当然だろ？　僕の命より大切な妹の顔に傷をつけるんだから」

「こ、こんな貧相で腹黒な小娘のどこがいいんだよ！！」

「バカ！　あんた、死にたいの！？」

「は？　だって本当のことだろ？　なあ？　ボス」

「バカ野郎！！　やつの顔をよく見てみろ！！　お前、死んだぞ！！」

「いやいや、そんなことあるわけ……」

「……決めた。今ここでお前をあの世に送ってやる」

「あっ、えっと、これは謝った方がいいやつ、かな？」

「バカ！　早く逃げて！！　お兄ちゃんが本気で怒ったらどうなるのか私にも分からないんだから！！」

「え？　そうなのか？　じゃ、じゃあ、そうさせてもらおうかなー」

「逃がすか！！」

「待って！　お兄ちゃん！！　こんなやつ殺す価値ないよ！　だから、落ち着いて！！」

「夏樹《なつき》、頼む。今すぐそこをどいてくれ。お前を傷つけたくない」

「やだ！　絶対どかない！！」

「……どけ」

「どかない！！」

「どうしてもか？」

「うん！！」

「そいつを生かしておいたらきっと仕返しされるぞ」

　ギクッ……！！

「そ、そんなことないよ。ねえ？」

「お、おう」

「だってさ！　だから、ね？　早くうちに帰ろう」

「……今回だけだぞ」

「うん！！　それじゃあ、早くここから出よう」

「ああ、そうだな」

　その直後、先ほど夏樹《なつき》（僕の実の妹）に輪切りにされかけた低級悪魔が夏樹に石を投げた。

「おっと危ない。あっ……」

　夏樹はそれを回避したが、その時僕の怒りは限界を超えてしまった。

「……前言……撤回！！」

「ば、バカ新人！　空気読め！！　あー、もうダメだ。ようやくここまで大きな組織になったのに何もかもおしまいだ」

「ま、待って！　お兄ちゃん！　今のは！！」

「喜べ。お前ら全員仲良くあの世に送ってやる」

「な、なあ、ボス！　あいつ、どうにかできないのか！！　俺様、こんなところで死にたくねえよ！！」

「あのなー、あいつは通常時でさえ不意打ち以外の攻撃を当てる方法がないんだぞ？　しかも、完全にキレちまってる。あんなの誰にも止められねえよ」

「そ、そんな……！！」

「お兄ちゃん！　お願い！！　一旦落ち着いて！！」

「ダメだ。皆殺しにする」

「そんなことしたら世界中の悪魔を敵に回すことになるよ！！」

「かまわない。全員返り討ちにしてやる」

「お兄ちゃん！　私、どこもケガしてないからそこまでする必要ないよ！！」

「いいや、ダメだ。ここで見逃したらきっと後悔する。潰せる時に潰しておかないとダメだ」

「お、お兄ちゃんの分からず屋ー！！　お願いだから一旦落ち着いてよー！！」

「それはできない」

「どうして！！」

「僕はこの世の誰よりもお前が幸せになることを望んでいるからだ」

「じゃあ、私のお願い聞いてよ！！　そうしないと私、不幸になっちゃうよ！！　私、お兄ちゃんが誰かを殺すところなんて見たくないよー！！」

「……夏樹《なつき》」

　うーん、あの予知夢はもしかしたら未来の僕の姿だったのかもしれないな。髪が長かったのはおそらく僕の体内にある夏樹の髪の力を使ったからだと考えれば辻褄は合う。

「分かった。でも、この先あいつらが僕たちに危害を加える可能性があるから、あいつらの魂全部キューちゃんの中に入れておこう」

「うーん、まあ、それなら安心かなー。みんなー、それでいいー？　いいよねー？」

「ボス、どうします？」

「そうしないと全員ここで終わりだ。ほら、さっさと魂出せ」

「え？　あー、はい」

「お前らもだ！！」

『は、はい！！』

「コホン……あー、まあ、その、今後一切お前たちに危害を加えるつもりはねえけど、一応預かっておいてくれ」

「分かった。それと分かってるとは思うが奪還作戦とか暗殺作戦とか夜襲作戦とか考えたり実行したりするなよ？　その時は容赦なく魂潰すから」

「おー、怖い怖い。まあ、何か困ったことがあったら言ってくれ。できる限り力になるからよ」

「ああ。夏樹《なつき》、帰るぞ」

「うん♡」

　はぁ……まだ手が震えてやがる。でも、まあ、良くも悪くも新人教育になったから良しとしよう。