イソギンチャク事件
その事件の原因はある日、頭にイソギンチャクが生えている女の子が風邪をひき、くしゃみをしたことだった。これにより世界は一度滅びかけた。
朝……学校……自教室……。
「ギリギリセーフ!! あれ? なんか今日欠席者多いな」
「雅人さん、先ほど全世界の学校が休校になりました」
「おー、そうか。ん? 全世界の学校が休校? 全国の間違いじゃないのか?」
「いえ、全世界です。原因はパリトキシン・スペシャルという神経毒をばら撒いているイソギンチャク娘が風邪をひき、くしゃみをしたからです」
「イソギンチャク娘……。それってもしかして前にうちにカレーを持ってきた女の子か?」
「はい、そうです」
「そうか……。えっと、その子は昨日までに国外へ出たことはあるのかな?」
「ありません。ですが、アオブダイやハコフグ、ウミスズメを食べた形跡がありました。しかも、生で」
「うわあ、生かー。妖怪じゃなかったらとっくに死んでるぞ。まあ、いい。とにかくその子の風邪を早く治そう。このままだと世界が滅びる」
「そう言うと思って保健室に彼女を運んでおきました」
「そうか……ん? おい、童子。それってうちの高校のって意味か?」
「はい、そうです。ちなみに普通の人間は彼女の半径十キロ以内にいるだけで死にます」
「しれって恐ろしいこと言うな! まあ、いい。とりあえず保健室まで行こう」
「はい、ドクター」
「ドクター言うな」
朝……保健室……。
「えっと、それで僕は何をすればいいんだ? リンゴをすりおろせばいいのか? それとも体を拭けばいいのか?」
「違います。あなたの仕事は彼女のそばにいることです」
「え? それだけでいいのか?」
「はい、それだけです。あっ、でも、手を出すのはダメですよ?」
「弱ってる女の子に手を出すわけないだろ。お前は僕を何だと思ってるんだ?」
「草食系インキュバスです」
「なるほど。うーん、まあ、そうだな。だいたいそんな感じだよな、僕って」
「雅人さん、そんなことより早く彼女の手を握ってあげてください」
「え? あー、分かった」
「……お母さん」
「あっ、起こしちゃったか?」
「お母さんは?」
「え? あー、えーっと、仕事じゃないかな?」
「そっか。私より仕事の方が大事なんだ」
「そんなことはないと思うぞ。だって、君の異変に最初に気づいたのは君のお母さんなんだから」
「そうなの? というか、なんでそんなこと知ってるの?」
「それは……まあ、僕が医者だからだ」
まあ、ここに来る前に童子から色々聞かされただけなんだが。
「そっか。でも、昨日から全然熱が下がらないよ。どうしてかな?」
「それは君の体が菌と戦ってるからだよ。だから、そんなに心配する必要ないよ。大丈夫、今日一日ゆっくり休めばきっと明日には良くなるよ」
「そうかな?」
「そうそう。あっ、そうだ。何か欲しいものないか?」
「うーん……あっ、先生が欲しい」
「え?」
僕が欲しい? えーっと、これは熱で頭がおかしくなってるのかな?
「先生、私のとなりに来て。お願い」
「え? いや、でも、さすがにそれは……」
「お医者さんの仕事は患者の病気を治す手助けをすることじゃないの?」
「よく知ってるね。でも、さすがに患者と一緒に寝るのは」
「ダメなの?」
「ダメというか普通はそんなことしないよ。でも……今回だけはまあ、いいかな」
「やったー。ありがとう、先生。なんかちょっと体が軽くなったよー」
「はいはい」
うーんと、これで良かったのかな?
彼女の風邪は次の日の朝、完治した。しかし、僕は一週間くらい彼女を診察しなければならなくなった。再発したら今度こそ世界が滅びてしまうかもしれないからだ。というか、僕は彼女のお気に入りらしいから、きっとこれからもちょくちょく診察しないといけないだろう。まあ、そんなに苦ではないから別にいいけど。




