姫凛ちゃん! コロッケに何入れたの!?
黒い天使は堕天使。まあ、バグみたいなものだ。そんな話を例の天使型金属生命体たちの隊長みたいなやつから聞いた。その時、それは僕の目の前にはおらず僕の頭の中に直接話しかけてきた。だから、これは僕と僕を常時監視している者たちしか知らない。
「雅人ー、口開けてー」
レイ(天使型金属生命体)は初心者とは思えないほど箸の使い方がうまい。おそらく僕の頬にキスした時、マスターしたのだろう。レイは手作りコロッケを僕の口の中に押し込もうとしている。その様子をじーっと見つめている夏樹(僕の実の妹)は自分の黒い長髪を逆立てている。
「おい」
「なんだ? 夏樹」
「お前、死にたいのか?」
「これくらい別にいいじゃないか。雅人はみんなのものなんだから」
「レイ、てめえ……!」
「夏樹、落ち着け!! レイはこの世界に来て間もないからきっと人との距離感が多分分からないんだよ!!」
「そうかなー?」
「そ、そうだよー。なあ? レイ」
「私は雅人が好きだ。だから、雅人と〇〇したり〇〇したりしたい」
「お兄ちゃん、こいつ本能に従いすぎじゃない?」
「う、うーん、まあ、そうだな。それとレイ。食事中にあんまりそういうこと言わない方がいいぞ」
「そうなの?」
「そうだ」
「どうして?」
「うちには年上だけじゃなくて年下もいるからだ」
「そうか。分かった。気をつける。そんなことより早く口を開けろ」
「え? あー、うん、分かった」
僕が口を開けるとレイは手作りコロッケ(僕とレイ以外の子たちで作った)を僕の口の中に押し込んだ。
「どう? おいしい?」
「うん、おいしいよ。あれ? でも、なんか急に体が熱くなってきたような気がするな」
「あっ、それ多分私が作ったコロッケだよ」
「き、姫凛ちゃん! コロッケに何入れたの!?」
「な・い・しょ♡」
「もうー! どうして姫凛ちゃんはいつも旦那様を誘惑することしか考えてないんですかー!!」
「お母さんがいつまでも足踏みしてるからだよ。あっ、そうだ。ねえ、お母さん。お父さん、私のものにしてもいい?」
「それはダメですー!!」
「じゃあ、もう少し積極的になろうよ。狐なんだからさ」
「そ、そんなことより今は旦那様の方が大事です! 旦那様! 大丈夫ですか!? しっかりしてください!!」
「大丈夫だよ、凛。少し休めば治るから」
「で、ですが!!」
「あー、でも、横になった方が早く治ると思うからソファまで肩を貸してくれないか?」
「わ、分かりました!!」
「私も手伝うよ。お父さん♡」
「お、おう、助かるよ、姫凛。でも、こういうこと学校でしちゃダメだぞ?」
「お父さん以外興味ないから絶対しないよ」
「そうか」
「え? 私もですか?」
「お母さんは鈍感だなー。今のは異性としての興味って意味だよ」
「そ、そうですか! じゃあ、家族としての興味はあるんですね!!」
「さぁ? どうかなー」
「えー! 何ですかー! それー!!」
「……なあ、夏樹。雅人は大丈夫なのか?」
「は? 大丈夫に決まってるでしょ。私のお兄ちゃんは人間やめてるんだから。それよりレイ、あんた今日誰と寝るの?」
「え? もちろん雅人と一緒に」
「なら、私も混ぜろ」
「え?」
「え? じゃない。この家にはお兄ちゃんを狙ってるメスがうじゃうじゃいるんだぞ? 私がいないとお前死ぬぞ」
「私は死なないよ。自分の身は自分で守れるから」
「そのセリフはこの家にいるメスどもの能力を全て把握してから言え。じゃないと痛い目に遭うぞ」
「そうか。教えてありがとう、夏樹。お前、いいやつだな!!」
「勘違いするな。今のは警告だ」
「そうか。でも、ありがとう」
「お、おう」
こいつ、良くも悪くも本音しか言わないから調子狂うな。




