トラウマ
最近、精神的に追い詰められる人が増えている。というか、増え方が異常だ。座敷童子の童子の情報によるとある日を境にそういう人が急増したそうだ。まあ、十中八九妖怪が絡んでいるだろう。さて、どうしたものかな。
「お兄さん、私犯人の居場所分かるよ」
僕の家のリビングにあるソファに座っているレイナ(白髪ロングの幼女だが宇宙人である)は唐突にそう言った。
「何!? それは本当か!!」
「うん、本当だよ。というか、お兄さんを呼んでるよ」
「呼んでる? 僕を?」
「うん。あっ、私とお兄さん以外来ちゃダメって言ってる」
「そ、そうか。それで? そいつは今、どこにいるんだ?」
「この家の近くにある公園だよ」
「あそこか。分かった。じゃあ、行こうか」
「うん」
「待ってください」
座敷童子の童子が僕の手首を掴む。
「な、なんだよ」
「これを私だと思って肌身離さず持っていてください」
彼女が僕に手渡したのは厄除けのお守りだった。
「お、おう、分かった。というか、鬼姫には効果ないみたいだな」
「当然よ。神を殺せるくらい強力なやつじゃないとあたしには効かないわ」
「そんなお守りあるのか?」
「あったら困るでしょ。主に神が」
「だろうな。じゃあ、いってきます」
『いってらっしゃい』
さてと、犯人はどんなやつかなー。
「こんばんは。はじめまして。僕の名前は『トラウマ』。精神攻撃をするのが得意な妖怪だよ」
「サラッと恐ろしいことを言うな。それで? どうして僕を呼んだんだ?」
「あー、それはね……。君を僕の助手にしたいからだよ」
「助手?」
「うん。ほら、君って龍神に好かれてるでしょ? だから」
「待て。お前今なんて言った?」
「あれ? もしかして知らなかったの? 君は龍神に好かれてるからすっごくモテてるんだよ」
「そうか……。そうだったのか。教えてくれてありがとう」
「どういたしまして」
「けど、僕はお前の助手になるつもりはない」
「どうして?」
「気に入らないからだ」
「どういうところが?」
「そういう人を小馬鹿にしているところとか、ずっとニコニコ笑っているところとか、自分が一番賢いと思ってそうだからだ」
「そうか。君となら世界征服できそうな気がしたんだけどな」
「世界征服だと?」
「人間たちは僕たち妖怪より寿命が短いくせにこの星の資源を過剰消費している。それってすごく愚かな行為だと思わないかい?」
「まあ、それはたしかにそうだが、今の生活レベルを下げるのはすごく難しいと思うぞ」
「そうだね。明日から電気使えなくしたら、もうそれだけで世界中大パニックだよ」
「だろうな。でも、いずれその時が来ると思うから放置しておいていいと思うぞ」
「君、なかなか面白いこと言うね。しかも、助ける気すらない」
「共倒れになるのはごめんだからな」
「ひどいなー、僕よりひどいよ」
「お前は単に人間っていうおもちゃで遊びたいだけだろ」
「そうだよ。何か問題ある?」
「ある。というか、お前のせいで困ってる人が大勢いるんだよ。ということで僕は今からお前を倒す」
「君にできるかなー?」
「お前に一ついいことを教えてやろう。どこに行っても上には上がいるんだよ!!」
「そうかなー? トラウマ発動!!」
「お兄ちゃんなんて嫌い! 大嫌い!! 今すぐ私の前からいなくなって!!」
ごめんね、雅人。でも、僕の助手にならない君が悪いんだよ。さて、君は最愛の妹を攻撃できるかなー?
「そうか。でも、僕はお前のこと大好きだぞ」
「……っ!! お、お兄ちゃん……」
「……!! 幻覚とはいえ、今の彼女の好感度はゼロのはず。しかし、この反応は明らかに」
「夏樹はこの世にたった一人しかいない僕の妹だ。そんな妹の幻覚になんと言われようと僕には照れ隠しにしか聞こえないんだよ」
「このシスコンめ! もういい! 今すぐ君の心を破壊してやる!」
「それは困る。こやつは我のお気に入りなのだから」
「なっ! お、お前は!!」
「失せろ! 小僧!! 龍神の波動!!」
「う、うわああああああああああああああああああああ!!」




