じゃあ、早く教えて♡
鬼姫がこちらに向かってくる何者かに殴りかかると、そいつは見えない壁でそれを防いだ。
こいつ、そこそこ強いわね。でも、今の感触はコンクリートでもガラスでもない。今のはそう、空気。空気の壁。
「ひどいなー、こっちは話がしたいだけなのに」
「話ねー、じゃあとりあえず一発殴らせなさいよ」
「あー、僕痛いの苦手だから無理! というか、見た目は男だけど僕と今しゃべってるのは女の子なんだね」
「そうだけど、それがどうかしたの?」
「いや、別に。ところで君は身長高い男は好き?」
「あたし、強いやつと面白いやつ以外興味ないのよねー」
「そっかー。でも、自分より背が高い男に抱きしめられたらキュンとしない?」
「うーん、そうねー。そいつが強かったらキュンとしちゃうかもねー」
「そっかー。じゃあ、今から試してみようか」
常時糸目の男が指をパチンと鳴らすとやつの身長が五センチほど伸びた。
「どう? すごいでしょ。この青空の下にいる限り、ボスの手下全員自分の身長を自由に変えられるんだよー」
「ふーん、でも、強さは変わらないんでしょ?」
「まあね。でも、相手を見下ろせるようになるよ」
「見下ろす? 見下すの間違いないじゃない?」
「……何が悪い」
「は?」
「今まで散々僕のことを小人だ、チビだと見下してきたやつらを見下して何が悪い!!」
うわあ、地雷踏んじゃったー。どうしよう。
「別に悪くないけど、今も気にしてるってことは身長以外に原因があるんじゃないの? 勉強、スポーツ、コミ力、顔面偏差値、性格、財力……。色々あるけど、あんたにないものは何?」
「うるさい! 今の僕は完璧だ!! 組織の幹部になった僕に弱点は存在しない!!」
こいつ、自分にないものばかり求めて絶望するタイプね。自分にあるものを伸ばせばいいのに。まあ、自分のいいところって自分だとなかなか気づけないのよねー。
「あっ、そう。でも、あんたより強いやつはゴロゴロいるわよ。例えば……あたしとか」
「黙れえええええええええええええええええええええ!!」
はぁ……つまんない男。あたしはこちらに向かってきたやつの拳を手で受け取めるとその手をもぎ取った。
「うわああああああああ! ぼ、僕の手があああああ!」
「大丈夫大丈夫。あたしの霊力で出血しないようにしてるから。あっ、でも、痛覚は遮断してないから死ぬほど痛いわよ」
「こ、この悪魔め! なんてことするんだ!!」
「ごめんごめん。でも、殺されるよりからマシでしょ?」
「ふざけるな! 早く僕の手を返せ!!」
「じゃあ、あんたたちのボスの居場所教えて」
「お前みたいな悪魔に言うわけないだろ!!」
「ふーん、じゃあ、あんたの手の爪、一枚ずつ剥がしてもいい?」
「ま、待て! やめろ! やめてくれ!!」
「じゃあ、早く教えて♡」
「くっ……! ぼ、ボスは今……」
やつがボスの居場所を言おうとした時、やつの首が宙を舞った。はぁ……面倒くさ。あたしはあたしの霊力でそいつの首と胴体の出血防止と痛覚遮断を同時に行った。
「これでいい? 雅人」
「ああ」
「あんたってそういうところは人間やめても変わらないのね」
「まあな」
「で? あんた、誰?」
「やつは我らのボスの居場所を言おうとした。故に切った」
「あっ、そう。で? あたしもこれからそうするの?」
「うむ」
「ふーん、そうなんだ。じゃあ、やられる前にやっちゃいましょうか!!」
あたしは口に小枝を咥えている侍めがけて走り始めた。期待はしない、油断もしない。でも、できるだけ長く戦えるように少しずつダメージを与えてあげるわ。感謝しなさい!!




