あのね、お兄さん。一度味わった快楽から遠ざかろうとすると体が拒否反応出しちゃうんだよ
夜……裏路地……。
「なあ、レイナ。なんで呼んでもないのについてきたんだ?」
僕がそう言うとレイナ(白髪ロングの幼女だが宇宙人である)は早口でこう言った。
「私はお兄さんの犬だから、いつもお兄さんのそばにいないといけない。じゃないとお兄さんに捨てられちゃうから。つまり、私は二十四時間三百六十五日、お兄さんのそばにいないと生きていけない。だから、私はお兄さんが命令してなくてもいつもお兄さんのそばにいるんだよ」
「お、おう、すごい忠誠心だな。でも、お前なら僕の血の効果を無効にできるんじゃないか?」
「あのね、お兄さん。一度味わった快楽から遠ざかろうとすると体が拒否反応出しちゃうんだよ」
「そうなのか?」
「うん、そうだよ。ねえ? 童子ちゃん」
「まあ、そうですね。あなたも私もどこかの誰かさんのせいでおかしくなってしまいましたから」
「そうなのかー」
今のお兄さんのことだよ。今のはあなたのことですよ。
「まあ、とりあえず『乳取り魔』がいるテントまで行くか」
「はい」
「うん♡」
レイナはそう言いながら僕の腕をギュッと抱きしめた。それを見た座敷童子の童子も同じことをした。ちょっと歩きづらいけど、僕たちの周囲にいる人間や妖怪に誘拐されるかもしれないからしばらくこのままでいよう。
*
えーっと、これが『乳取り魔』がいるテントか。
「おーい、誰かいるかー」
僕がそう言うと黒いテントの中からスーツを着た若い男性が出てきた。
「こんばんは。いい夜ですね」
「え? あー、そうだな。それで? お前が噂の『乳取り魔』か?」
「取る? 私は別に取ってなどいませんよ。必要のない方から提供された胸の皮下脂肪を必要な方に譲渡しているだけです」
「提供に譲渡か。でも、世間ではそういうのを売買っていうんだよ」
「そうですか。まあ、とりあえず中で話しましょう」
「分かった。でも、二人に変なことをしようとしたらお前はしっと後悔するからやめておいた方がいいぞ」
「安心してください。私は格上の言うことには逆らいませんから」
「そうか。分かった」
今の言葉、なんか引っかかるな。覚えておこう。僕たちはやつを警戒しつつ黒いテントの中に入った。




