先輩の手、あったかいれすー
どうしよう、全然起きる気配がない。
「おい、紗良。そろそろ起きろ」
「えへへへ、せんぱーい♡」
いったいどんな夢を見ているんだろう。
「なあ、童子」
「何ですか?」
「こいつ、そろそろ起こした方がいいよな?」
「今起こしたら確実に猫化します」
「え? そうなのか?」
「はい、なのでもうしばらくそのままの状態でいてください」
「分かった」
はぁ……しばらくこのままなのか。僕が後輩の頭を撫でると彼女は僕の手を両手で包み込んだ。
「先輩の手、あったかいれすー」
こいつの手、なんか猫っぽくなってきてるな。
「せんぱーい、指舐めてもいいれすかー?」
「ダメだ」
「えー」
こいつ、ホントに寝てるのかなー?
「紗良、とりあえず手を離してくれないか?」
「いやれすー」
「いやって、お前な……」
「ねえ、先輩。先輩は私のこと好きー?」
え?
「うーん、まあ、嫌いではないな」
「好きー?」
好きって言ってほしいのかな?
「ああ、好きだ」
「そうなんれすかー。私も先輩のこと大好きれすー♡」
「そうか」
「私たち相思相愛れすねー」
「そうかな?」
「そうれすよー。あっ! そうだ! 先輩、子猫好きれすか?」
「え? うん、まあ」
「そうれすかー。じゃあ、私と一緒に子猫を」
「させるかー!!」
夏樹(僕の実の妹)が自分の黒い長髪の先端を紗良の頭に刺そうとする。紗良は目を閉じたまま華麗にジャンプしてそれを躱す。
「この泥棒猫! やっぱりお前は私の敵だ!!」
「ひどいにゃー。まだ何もしてないのに」
「しようとしてただろ!!」
「だってー。先輩の膝枕最高なんだもん。あれで発情しない方がおかしいよー」
「気持ちは分かる。けど、お兄ちゃんに手を出すのはダメだ!!」
「えー、にゃんでー?」
「お兄ちゃんの初めては私がもらうことになっているからだ!!」
「えー、そんにゃのおかしいよー。ねえ? 先輩」
「え? うーん、まあ、そうだけど、僕はできるだけ夏樹の望みは叶えてやりたいと思っているから夏樹がそれを望むんだったら僕は夏樹の言う通りにするよ」
「だってさ!! というか、とっとと失せろ!!」
「うーん、じゃあ、先輩の指を舐めたら帰るにゃー」
「本当か? それ以上のことはしないと誓えるか?」
「夏樹ちゃんは心配性だにゃー。それ以上のことをしたら私の命があぶにゃいことぐらい分かってるにゃー」
「あっ、そう。じゃあ、さっさと済ませなさい」
「分かったにゃー」
彼女は目を閉じたまま僕のとなりに座ると僕の手を両手で優しく包み込んだ。
「ねえ、先輩。一生そばにいていいれすか?」
「好きにしろ」
「やったー! じゃあ、いただきまーす♡」
彼女が僕の人差し指を舐めると彼女はようやく目を覚ました。
「あれ? 私、今まで何して……。あのー、私寝てる間に何かしてました?」
「何もなかった」
「えっと、それ本当ですか?」
「ああ、本当だ。なあ? 夏樹、童子」
「うん」
「はい」
「そ、そうですか。あっ! 私そろそろ帰りますね! 先輩、今日は本当にありがとうございました!!」
「おう。あっ、家まで送ろうか?」
「大丈夫です。猫たちと一緒に帰るので」
「そうか。気をつけて帰るんだぞ」
「はい!!」
彼女はそう言うと嬉しそうに家から出ていった。あいつ、スキップしてたな。実は意識あったのかな?
「先輩の指、おいしかったなー。また舐めたいなー」




