にゃいれすー
放課後、僕は『下北 紗良』と共に下校した。下校中、夏樹(僕の実の妹)は少し離れたところから僕たちを尾行していた。大丈夫だよ、夏樹。僕はこいつのことちょっと変わった後輩としか見てないから。
「紗良、なんか飲むか?」
「え? あー、えーっと、先輩におまかせします」
「そうか。じゃあ、麦茶でいいか?」
「はい! 大丈夫です!!」
彼女の頭部にある猫耳がピコピコ動いている。うーん、嬉しいのかな? 僕がリビングのソファに座っている紗良に麦茶が入っているコップを手渡す。
「ほらよ」
「あっ! ありがとうございます! 先輩!!」
「なあ、紗良」
「何ですか?」
「お前の舌って今どうなってるんだ?」
それを聞くと彼女はなぜか赤面した。
「い、いきなり何なんですか! 先輩、そういう趣味があるんですか!!」
「いや、僕は別に舌フェチじゃないぞ。僕が知りたいのはお前の舌が今どんな状態なのかだ」
「ど、どんな状態って……そりゃ、湿ってますよ」
「あー、いや、そうじゃなくて。人っぽい舌なのか、それとも猫っぽい舌なのかってことだ」
「あー、そういうことですか。私は元から猫舌ですよ」
「あー、すまない。もっと具体的に言えばよかったな。お前の舌って今ザラザラしてるのか?」
「あー! そういうことでしたか!! えーっと、それは……分かりません」
「分からないのか……」
「あのですねー、普通舌なんて触りませんよ!!」
「そうなのか? 夏樹はよく僕に触ってほしいって言ってくるぞ」
「え? ちょ、ちょっと! 夏樹ちゃん!! 今の話本当!?」
「うん」
「どうしてそんなことするの!!」
「お兄ちゃんの指がおいしいからだよ」
「おいしくても他人の指舐めちゃダメだよ!!」
「どうして?」
「どうしてって、手にはたくさんバイ菌がついてて汚いからだよ」
「お兄ちゃんは汚くなんかないよ。何なら試しに舐めてみる?」
「べ、別にいいよ! というか、いつまでも赤ちゃんみたいなことしてたらみんなに笑われるよ!!」
「本当は舐めたいくせに……」
「聞こえてるよ!!」
「え? 何が?」
「もうー! とぼけないでよ!!」
「まあまあ、そんなに怒るなよ。ほら、麦茶でも飲んで少し落ち着け」
「は、はい。そうします。あっ、冷たくておいしいです」
「そうか。それは良かった。えっと、これからどうする? 何してほしい?」
「え? あー、そうですね。じゃあ、ひ、膝枕を」
「お兄ちゃん! 久しぶりにゲームしよう!!」
「夏樹、頼むから邪魔しないでくれ」
「えー、なんでー?」
「紗良が困ってるからだ」
「えー」
「えー、じゃない。紗良、膝枕してほしいんだったらもう少しこっちに来てくれ」
「え? あっ、はい、分かりました」
紗良が僕のそばまでやってくる。彼女は顔を真っ赤にしながら僕のふとももに頭を乗せた。
「どうだ? 気持ちいいか?」
「あっ、はい、いい感じです」
「そうか。それは良かった。よしよし」
せ、先輩が私の頭撫でてる!? あー! 今すぐここから逃げ出したい! でも、気持ちいいからもっと続けてほしい!
「紗良、他に何かしてほしいことあるか?」
「にゃいれすー」
「そうか……って、あれ? なんかちょっと猫化してないか?」
「大丈夫大丈夫。お兄ちゃんに頭撫でられて体と心がふにゃふにゃになってるだけだから」
「そうなのか?」
「そうそう。ね? 紗良ちゃん」
「先輩、しゅきー。だいしゅきー♡」
彼女はそう言うとスウスウと寝息を立て始めた。うん、まあ、幸せそうだから問題ないだろう。




