継承の儀
今日の晩ごはんのおかずは『とんかつ』だった。
「お兄さん、もうすぐ来るから準備して」
洗い物をしている僕にレイナ(白髪ロングの幼女だが宇宙人である)はそう言った。
「来る? いったい何が来るんだ?」
「宇宙船だよ、私の星の」
「先遣隊か? それとも本隊か?」
「ただのあいさつだよ」
「それってお前の両親が来るってことか?」
「うん」
「そうか。えーっと、もうすぐ来るのか?」
「もう来てるよ」
「……え?」
リビングのソファに見知らぬ男女が座っている。そうか。あれがレイナの両親か。よし、あいさつしに行こう。
「こんばんは。僕は……」
「レイナ、この星の文明レベルは低い。今すぐ戻ってきなさい」
「この星、海綿類がいなかったらとっくに滅びてるわ。レイナ、私たちと一緒に帰りましょう」
あ、あれー? なんか、ただのあいさつじゃないな。
「おい、レイナ。お前の両親、お前を連れ戻しに来てるぞ」
「お父さん、お母さん。私、お兄さんの……この人と結婚するから星に帰るつもりないよ」
「え? 結婚? なんだよ、それ。初耳だぞ?」
「だろうね。今決めたから」
「今って、お前な……」
「レイナ、お前は次期女王なのだから、そんな下等な生き物と結婚するのは無理だ」
「レイナ、あなたにはもっといい相手がいるわ。だから」
「二人はいつもそう……娘じゃなくて次期女王としての私しか見てない」
「そんなことはない」
「そうよ、私たちはいつもあなたのためを思って」
「…‥嘘つき」
レイナの周囲を白い光が包み込む。彼女はそれを剣にすると自分の両親の首を刎ねようとした。
「待て! レイナ!!」
僕はレイナの光の剣を両手で受け止める。
「お兄さん、邪魔しないで」
「レイナ、僕はお前のことやお前の両親のことをほとんど何も知らない。でも、これだけは分かる。今のお前には両親の嫌なところしか見えてない!! だから! 少し頭を冷やせ! レイナ!!」
「……それは命令?」
「ああ、命令だ」
「そっか。二人とも命拾いしたね」
彼女はそう言うと光の剣から手を離した。その直後、それは消滅した。
「お兄さん」
「ん? なんだ?」
「お姫様抱っこして」
「え? あ、ああ、分かった」
「お兄さん、二人の目の前まで私を運んで」
「お、おう」
僕はレイナをお姫様抱っこした状態で二人の目の前まで運んだ。
「お父さん、お母さん。今まで私を育ててくれてありがとう。私、幸せになります」
レイナが僕の首筋に顔を近づけ始めるとレイナの両親の顔が真っ青になった。
「や、やめろ! レイナ!!」
「レイナ! やめなさい!!」
レイナが僕の首筋にキスをすると僕の中に大量の情報が流れ込んだ。
「な、なんだ? 今の」
「おめでとう、これでお兄さんは私の星の王様になったよ」
「え? そうなのか? うーん、でも、全然実感ないな」
「ああ、なんということだ」
「……継承の儀が成功してしまったわ」
「え、えーっと、僕はこれからどうすればいいんだ?」
「それはお兄さんが決めていいんだよ」
「そうか。えっと、じゃあ、今まで通り生きていこうかな」
「お兄さんらしいね。あっ、二人とももう帰っていいよ」
「くそ……なんで……どうして……」
「お願い、夢なら早く覚めて……」
二人はそんなことを言いながら星に帰った。
「お兄さん、子どもは何人欲しい?」
「いや、そういうのは高校卒業してからにしてくれ」
「分かった。じゃあ、それまで気長に待ってるから」
「お、おう」
「……逃げないでね」
「お前から逃げられる方法があれば教えてほしいよ」
「冗談だよ」
「そうか」
正直、冗談に聞こえないんだよな……。とほほ……。




