キューの声
自我を持った空間『暁闇の空箱』の生態は正直よく分からないが一応相棒(?)みたいな感じなので一緒に生活することにした。
「なあ、童子」
「何ですか?」
「こいつ、何食べると思う?」
「キュー♡」
僕の頭の上ではしゃいでいる丸みを帯びた黒いサイコロは僕の頭をトランポリンにしている。僕は座敷童子の童子が返答するまでの間、彼女が入れてくれたお茶を飲んでいた。
「おそらく、あなたの生命エネルギーが主食だと思います」
「だよなー。あっ、こいつ、学校に連れていっても大丈夫かな?」
「できるだけ、この子のそばにいた方がいいと思います。何が起こるか分からないので」
「だな。あー、あと、もう少し呼びやすい名前考えないといけないな」
「そうですね。まあ、考えるまでもないと思いますが」
「ん? ああ、そうだな。なあ、キュー」
「キュー?」
「キュー、お前は今日から僕の相棒だ。よろしくな」
「キュー!」
えーっと、今のは「こちらこそよろしく!」かな?
「なあ、童子。こいつに性別あるのかな?」
「あなたのことが好きな時点でメス確定ですよ」
「いや、さすがにそれだけで判断するのは」
「そうですか。では、これからいくつか質問をするので正直に答えてください」
「分かった」
「コホン……男性に告白されたことはありますか?」
「……ないな」
「バレンタインデーに男性からチョコをもらったことはありますか?」
「……ないな」
「男性に迫られた経験は?」
「……ないな」
「男性にデートに誘われた経験は?」
「……ないな」
「男性に異常に優しくされた経験は?」
「……ないな」
「そうですか。では、今までの質問を全て異性にしてみてください。いくつ当てはまりますか?」
「……全部当てはまるな」
「まあ、そうでしょうね。あなたから常時放出されている特殊な物質は女性の心の子宮をキュンとさせる効果がありますから」
「その言い方やめてくれないか? 気持ち悪いから」
「分かりました。では、その言い方の『その』の部分を具体的に教えてください」
「え? あー、えーっと……心の子宮だ」
「分かりました。では、これからはハートにしましょう」
「うん、そっちの方がそんなに気持ち悪く……いや、どっちもどっちだな。どうして僕にこんな恐ろしい力があるんだろう」
「それはおそらく死んでも分かりません。なので、こう考えるようにしてください。『あなたになら、その力を託してもいいと思ったから』と」
「そうか。うん、そうするよ」
「キュー♡」
「ん? どうした? 遊んでほしいのか?」
「キュー……キュー!!」
んー? 今なんかキューの声と一緒に何か飛ばされたような、気のせいかな?
「……雅人さん」
「ん? なんだ?」
「今すぐ、ここから、出ていって、ください」
「え? なんでだ?」
「理由は……言いたく、ありません」
はぁ……原因は確実にキューだな。
「そうか……分かった」
「……ま、待ってください!!」
「ん? どうした? 僕に見られたくないんだろ?」
「あっ、いや、その、一人だと心細いのでそばにいてほしいんです」
「そうか……分かった。あっ、耳栓してた方がいいか?」
「いえ、結構です。それと、そろそろ限界です。あっ、あと手を握ってもらえませんか? 少しはマシになると思うので」
「分かった」
僕が手を握ると童子は珍しくニッコリ笑った。
「ありがとう、ございます。では、いきます」
彼女はそう言うと童子は嬌声を上げ始めた。あー、なるほど、そういうことか。キュー、お前に悪意はないんだろうけど、僕がその力を受け入れた瞬間、その力を増幅させて童子に放つのはどうかと思うぞ。




