暁闇の空箱
座敷童子の童子の部屋……。
僕が自分専用の空間を作る練習を始めた直後、僕の手の平の上に手の平サイズの立方体が出現した。
「えーっと、こんな感じでいいのかな?」
僕がそう言うと童子はそれをいろんな角度から見始めた。
「……雅人さん」
「な、なんだ?」
「あなた、才能ありますよ」
「え? そうなのか?」
「はい。初心者はだいたい泥のような形状になるのですが、雅人さんは普段から人間の闇を使っていますからね、そのおかげでなんとなく作れたんだと思います」
「なるほど、そういうことか。えっと、あとはこれを少しずつ大きくしていけばいいのか?」
「大きくする必要はありません。あなたの場合、それがちょうどいい大きさです」
「そうなのか? でも、これじゃあ、お前の空間みたいに誰かを自分の空間に招待できないじゃないか」
「できますよ。その中には何も入っていないのですから」
「何も入ってない? それってどういう意味だ?」
「そのままの意味です。その中には何もありません。水、空気、光、重力、とにかく何もありません。しかし、それに誰かが入ることで初めて無が有となります」
「え、えーっと、今、この中には何もないけど僕が生み出した空間だということはたしかでこの空間に入る人によって変化するってことか?」
「はい、そうです。まあ、詳しいことはまだ分からないのであまり使わないようにしてください。あっ、名前どうします?」
「え? 名前? いるのか?」
「あった方がいいです。いざという時に出せないと困るので。ちなみに私の空間名は『休憩所』です」
「なんかそういうことに使いそうで怖いな」
「一応、そういう場所としても使えますよ。まあ、誰かさんがその気になってくれないと一生そういう使い方はできませんがね」
「あ、あははは……」
名前……名前ねー。うーん、じゃあ……。
「『暁闇の空箱』」
「いいと思います。おや? この空間、自我を持っていますね。どうやら、あなたのことが気に入ったようです」
「いやいや、空間に自我なんてあるわけ……」
僕の手の平の上にある立方体はいつのまにか丸みを帯びていた。立方体の各面には白い楕円が二つずつあるため、おそらくそれら全て目のようなものなのだろう。
「……キュー♡」
それはかわいらしい声でそう鳴くと僕の頭の上まで移動した。
「おいおい、なんだよ、これ。こいつはいったい何なんだ?」
「前例はありませんが、おそらく、あなたの空間があなたを主だと認めた証なんだと思います。良かったですね、いい相棒ができて」
「いい相棒ねー」
「キュー♡」




