快楽地獄のツボ
ドタドタと足音が聞こえる。それは迷わず玄関に向かってくる。
「お兄ちゃーん! 約束覚えてるー?」
「れ、レイナ! 夏樹がこっちに来るから離してくれ!」
「いやだ」
「いやだって、お前な……」
「お兄さん、あんなの気にしなくていいよ。だから、今は私に甘えて」
「いや、でも……」
その直後、僕たちは夏樹(僕の実の妹)の視界に入ってしまった。はぁ……なんでいつもこうなるんだろう。
「ねえ、お兄ちゃん。そこで何してるの?」
「あっ、いや、これはだな……」
「お兄さん、じっとしてて」
「あっ、はい」
「お兄ちゃん! 説明して!! どうしてレイナちゃんに抱きしめながら頭撫でてもらってるの!!」
「それは私が説明するよ」
「お前は黙ってろ!!」
「夏樹ちゃん、落ち着いて。私はお兄さんにご褒美をあげてるだけだよ」
「ご、ご褒美?」
「うん、そうだよ。だから、邪魔しないで」
「はぁ……分かった。けど、それ以上のことはしちゃダメだよ!」
「ねえ、お兄さん。今からお兄さんの部屋であんなことやこんなことしようよ」
「ちょ! レイナ!! 余計なこと言うな!!」
「なあ……お前、私のお兄ちゃんに……手を出すつもりなのか?」
「うーん、それはお兄さんの返事次第だね。ねえ、お兄さん。私といいことしようよ」
「え? うーん、なんか怖いからしたくないなー」
「そう。じゃあ、この星壊してもいい?」
「それはダメだ」
「じゃあ、私といいことしよう」
「……は」
僕が「はい」と言う前に夏樹の黒い長髪が僕の口を塞いだ。
「お兄ちゃん、こいつの言うことなんか聞かなくていいよ」
「夏樹ちゃん、邪魔しないで」
「じゃあ、私の前でイチャつくのやめて。不愉快だから」
「それは無理。私、他人が持ってるもの欲しくなっちゃうから」
「はぁ……なら、お兄ちゃんをコピーすればいいじゃない」
「あのね、私は夏樹ちゃんが心から愛しているオリジナルのお兄さんが欲しいの」
「そう。じゃあ、勝負しよっか」
「勝負?」
「うん。えーっと、勝負の内容は……『どっちがお兄ちゃんを幸せにできるか』でどう?」
「分かった。負けない」
「あっ、勝った方はお兄ちゃんを好きにできるっていうのはどう?」
「いいと思う」
「よし、じゃあ、決まりね」
「んー! んー!」
「ん? どうしたの? お兄ちゃん。何か言いたそうだね」
夏樹の髪が僕の口から離れた直後、僕は人差し指で二人のおへそを押した。
「ちょ……何……これ……」
「お、お兄さん……今の……何?」
僕はレイナ(白髪ロングの幼女だが宇宙人である)の質問に答えることなく、その場から離れた。
昨日、全身マッサージについて調べていた時に見つけた『快楽地獄のツボ』がさっそく役に立ったな。さて、どこに逃げようかな。僕がそんなことを考えているとどこからともなく座敷童子の童子が現れた。
「雅人さん、私の部屋で休憩しませんか?」
「おっ、童子か。うーん、そうだなー。じゃあ、そうしようかな」
「分かりました。では、私の部屋まで案内しますね」
「おう、頼む」




