大掃除
空島にある遊園地……ゲート付近……。
「な、夏樹ちゃん!!」
頭に猫耳が生えている『下北 紗良』が唐突に私を呼び止める。
「何?」
「あっ、その、えっと……て、手を繋ぎたいんだけど、いいかな?」
「それ、私じゃないとダメ?」
「うん!!」
「はぁ……じゃあ、手出して」
「え!? いいの!?」
「いやならしないわよ」
「そ、そんなことないよ! だから一人で帰ろうとしないで!!」
「なら、早く手出して」
「う、うん! えっと、どっちの手がいいんだっけ?」
「どっちでもいいから早く出して」
「は、はい!!」
彼女が私に差し出した手を私は自分の手で優しく包み込む。彼女の命の鼓動を感じる。そっか。こいつ、生きてるんだ。
「ねえ」
「え? 何?」
「どう? 私の手、気持ちいい?」
「あー、えーっと、柔らかくて、あったかくて、ちっちゃくて、優しくて、気持ちよくて……とにかくすっごく幸せだよ!! 生きててよかった!!」
「感想がちょっとキモいけど、正直に言ってくれたから許す」
「あ、あはは……ごめん。あと、ありがとう」
「ねえ、あんたの家、どこにあるの?」
「え!? もしかして送ってくれるの!?」
「当たり前でしょ。また変なのに襲われるかもしれないんだから」
「そ、そっか。そうだよね。あっ、でも、本当は先輩と一緒に帰りたいんじゃ」
「お兄ちゃんたちは今、大掃除してるから一緒に帰れないよ」
「大掃除? 今、春と夏の間くらいだよね?」
「あんたねー、それくらい察しなさいよ。大掃除は隠語よ」
「え? あっ、なるほど。でも、いいの? 私のために」
「あんたのためじゃない、私たちのためにやるのよ。それに先に手を出したのはあっちだから何をされても文句言えないわよ」
「あ、あははは。夏樹ちゃんってたまに怖い時あるよね」
「そう? あんたもそういう時あるでしょ? 例えば、何もかもめちゃくちゃにしたいとか」
「うーん、どうだろう。あっ、でも、夏樹ちゃんになら何をされてもいいよ!」
「さぁ、暗くなる前に帰ろう」
「あっ! ちょっと無視しないでよ! 夏樹ちゃん! ねえ、夏樹ちゃん! 夏樹ちゃんってばー!!」




