死神猫
遊園地のベンチ……。
頭に猫耳が生えている『下北 紗良』とのデートはそこそこ楽しかった。けど、やっぱりお兄ちゃんがいないと何か物足りない。
「夏樹ちゃん! 何か飲み物買ってこようか?」
「え? いや、いい。私の後頭部にあるもう一つの口が常に空気中の水分飲んでるから」
「え!? そうなの!! すごーい!!」
「あんた、だいぶこっち側になってきたわね」
「え? 何のこと?」
「ううん、何でもない。で? 次はどこに行くの?」
「うーん、じゃあ……おばけ屋敷!!」
「あっ、そう。じゃあ、行こっか」
「うん!!」
こいつ、なんでこんなに嬉しそうなんだろう。
「キャー! 井戸から幽霊出てきたー!!」
「はいはい」
「キャー! 顔にこんにゃく当たったー!!」
「はいはい」
「キャー! 提灯おばけー!!」
「はいはい」
わざとらしい、全然怖がってないじゃない。
「ねえ」
「ん? なあに?」
「あんた、私といて楽しい?」
「すっごく楽しいよ!!」
「そう。なら、いいんだけど。あっ、そこ、段差あるから気をつけて」
「え? あっ、本当だ。教えてくれてありがとう」
「はいはい」
夏樹ちゃん、優しい!! あと、かわいい!! 目に入れても痛くないよ!!
「あー! 怖かったー! あっ、もしかして本物が紛れてたりするのかな?」
「昔はそんなにいなかったけど、今はどこもほとんど本物よ」
「え? そうなの? というか、よく見分けられるね」
「あんなの嫌でも分かるよ。魂の色が違うんだから」
「へえ、そうなんだー」
「はぁ……あんたもいずれ私たちの同類になる可能性があるのよ? なんでそんなに呑気でいられるのよ」
「その時はその時だよ。あっ! 私が猫になっちゃったら夏樹ちゃんに飼ってほしいなー」
「は? なんでそうなるのよ」
「え? いや、だって私他に友達いないもん」
「は? 冗談でしょ? あんたみたいなのはたいてい陽キャグループに」
「ねえ、夏樹ちゃん。私がクラスの女子たちになんて呼ばれてるか、知ってる?」
「そんなの知らないわよ。猫娘とか猫女とか化け猫じゃないの?」
「ブブー! ハズレー! 正解はー……死神猫だよー」
「は? なんでよ」
遊園地のベンチに座っている私のとなりにいる彼女は自分の頭に生えている猫耳を触りながら、こう呟いた。
「私の元彼がね、交通事故で死んだからだよ」
「くだらない。どうせそいつの周囲に黒猫がいたからあんたの仕業だっていう噂が流れたんでしょ?」
「……うん」
「はぁ……あんたって意外と繊細よね。威嚇でもなんでもしてビビらせればいいのに」
「威嚇かー。フー! とかシャー! って言えばいいのかな?」
「そうそう。あー、あと、次からこういうのは私じゃなくてお兄ちゃんか猫の集会に参加してる猫たちに訊いて。私はそういうの詳しくないから」
「うん! 分かった! あー! なんかスッキリしたー! 話聞いてくれてありがとう」
「はいはい。ところで次、どこ行く?」
私が彼女にそう訊ねた時、彼女の首が宙を舞っていた。
「……紗良!!」
「いやあ、やはり『わいら』の鉤爪を剣の素材にして正解でしたねー。最高の切れ味ですー」
血は出ていない……。でも、肉体と魂の接続が切れてる。あの剣のせいか……。
「こんにちは。私、妖怪専門の殺し屋組織『斬殺』に所属しているライアーと申します。さっそくですが、あなたのお兄さんの居場所を教えていただけませんか?」
「……微塵切り」
「……へ?」
あ、あれ? 世界が歪む……。
「ゴミが……しばらくそこでおとなしくしてろ」
「すまない! 夏樹!! なんか変なやつらに足止めされて遅くなった!! あれ? これってもしかして紗良の首か?」
「うん……」
「そうか。うーん、ちゃんとくっつくかなー」
「……お兄ちゃん」
「ん? なんだ?」
「この娘、私の友達だから早めに治してあげて」
「分かった。おーい! 童子ー! いるかー!」
「はい、ここに」
「この娘の首、今すぐくっつけられるか?」
「可能です」
「そうか。じゃあ、よろしく頼む」
「はい」
座敷童子の童子は文字の力で彼女を元通りにした。その直後、僕と童子はその場から立ち去った。
「うーんと、じゃあ……観覧車!! って、あれ? 夏樹ちゃん、どうしたの? 泣きそうな顔してるよ」
「なんでもない」
「そう? うわっ! なんかゴミ落ちてる。なんのゴミだろう」
「……微塵切りにされたけど仮死状態の人体だよ」
「ん? 何か言った?」
「いや、何も。それじゃあ、観覧車乗ろっか」
「うん!!」




