……そんなことないわよ
僕が風呂から上がると彼女の残り香が僕の鼻腔をくすぐった。あの子は今、何をしているのだろうか。部屋でゴロゴロしているのだろうか。まあ、とりあえずさっさと体を拭いてしまおう。余計なことは考えない。えーっと、パジャマは……おっ、あった。あれ? このパジャマ僕のだ。座敷童子の童子が持ってきてくれたのかな? あとで礼を言っておこう。
「おーい、風呂から出たぞー。入ってもいいかー?」
彼女の部屋の中から物音が聞こえる。いったい何をしているのだろうか。
「お、おまたせ! さぁ、入って」
「お、おう、分かった」
ふむ、ベッドに寝ていた形跡があるな。まあ、別にどうでもいいけど。
「なあ」
「な、何?」
「もう少ししたら帰ってもいいか?」
「……え?」
「いや、さすがに若い男女が一つ屋根の下で寝るのはまずいだろ?」
「……そんなことないわよ」
「え?」
「あっ! えっと! ひ、人肌が恋しいから今日だけ一緒に寝てほしいなー……なんて」
「そうか。分かった。じゃあ、そうしよう」
「え? それ、本当?」
「そうすることで君が幸せになるのなら僕は喜んでそれを実行するよ」
「あ、あっ、そう! あんたって本当お人好しね!」
「そうかな? 僕は基本的に弱っている人にしか手を差し伸べないぞ?」
「え? そうなの?」
「ああ、そうだ。だから、死んだ人を生き返らせてほしいとかあいつを殺してほしいみたいな依頼は全て断るようにしてるんだよ。死んだ人を生き返らせようするとあの世が混乱するし、そもそも僕は便利屋じゃないから余計なことにはできるだけ首を突っ込まないようにしているんだよ」
「ふーん。じゃあ、もし、大切な人が誰かに殺されたらどうするの?」
「うーん、そうだなー。おそらく僕は理性を失うだろうね。この星を……いや、この世の全てを消し去ってしまうと思う。だから、僕はそうならないようにできるだけ敵を作らないようにしているんだよ。まあ、存在するだけで敵はどんどん増えていくんだけどね」
「そう。それじゃあ、そろそろ晩ごはんにしましょう」
「晩ごはんかー。ちなみに料理はどれくらいできるんだ?」
「できないわ」
「え?」
「私が料理しようとするといろんな物がそれを阻止してくるから多分私は料理しちゃいけないのよ」
「そうか。でも、一度食べてみたいなー。君の手料理」
「……っ!! さ、さぁ! 早く下に行きましょう! せっかくの料理が冷めちゃうわ!!」
「ああ、そうだな」
私の手料理が食べたいって、それ私を彼女にしたいってことよね? まったく、もう、それならそうと早く言ってくれればいいのに。




