死にたいは生きたいで楽しくないは辛いだ
次の日、僕と夏樹(僕の実の妹)が横断歩道の前で信号待ちしていると僕のとなりにうちの高校の制服を着た女子生徒がやってきた。彼女は下を向いたまま何やらぶつぶつ呟いている。その時の僕は彼女のことを何も知らなかったため、そういう人なんだと思っていた。けれど、彼女が何かの指示に従うかのように車道に飛び出した時、明らかにおかしいということが分かったため、僕は彼女を歩道まで引っ張った。
「おい、お前今死のうとしたろ?」
「……で」
「え?」
「なんで邪魔したのよ!!」
彼女が怒鳴ると夏樹が半分キレた。
「おい、お前……今すぐ串刺しにされたいか?」
「な、何よ! 小学生はとっとと小学校行きなさいよ!!」
「私は一応、高校生なんだがなー」
「夏樹、あまり刺激するな。怯えてるから」
「はーい!」
「だ、誰が怯えてなんか!!」
「君、名前は?」
「あ、あんたなんかに教えたくない!!」
「そうか。じゃあ、これから一緒に保健室に行こうか」
「は? ちょ、勝手に決めないでよ!!」
「そうでもしないとまた死のうとするだろ」
「うっ! そ、それは……」
信号がタイミングよく青に変わる。これはそうしろってことなのかな?
「何してる? 早く来い。まあ、現状を打破したくないのなら無視してもいいが」
「わ、分かったわよ。ついていくわよ」
彼女には見えていないようだが、彼女の背後には死霊がたくさんいる。今すぐ消すことはできるが、彼女自身が変わらなければまた死霊が寄ってくるだろうからなるべく早く彼女を救済する必要がある。
*
保健室……。
「童子、いるか?」
「はい、ここに」
「うわっ! な、何? 小学生?」
「小学生ではありません。座敷童子です」
「童子、放課後までこの子が逃げ出さないように見張っててくれ」
「分かりました」
「ちょ! 何勝手に決めてるのよ!!」
「君は今、楽しいか?」
「え?」
「死にたいは生きたいで楽しくないは辛いだ」
「ちょ、ちょっとあんた何言ってるの?」
「深く考えなくていい。とりあえず今日は休め。放課後になったらまた来るからそれまでおとなしくしてるんだぞ」
「は? ちょ! 待ちなさいよ!! あんた、いったい何なのよー!!」
雅人さんはお人好しですね。こんな小娘一人死んだところで誰も悲しまないのに。
「麦茶、緑茶、紅茶、コーヒー……色々ありますけど、何がいいですか?」
「いらない! というか、私もう帰る!!」
彼女が保健室のドアを開けようとすると見えない壁にぶつかった。
「ちょ、ちょっと! 何なのよ! これ!!」
「結界です」
「は? 結界?」
「はい、そうです。ちなみにあなた以外は自由に出入りできます」
「はぁ……あっ、そう」
彼女はベッドに横になると数分で眠りについた。まったく、嫁入り前の大事な体だというのにどうして自分の体を労われないんですかね。




