あの子
ユキ先生の漫画は日に日に進化していった。けれど、最近ユキ先生らしさが消えていっているような気がする。
「あの、ユキ先生」
「なあに? なんか変なところあった? それともベタ失敗した?」
「いや、なんか最近ユキ先生の描く漫画からユキ先生らしさが消えていっているような気がするんですよ」
「えー? そうかなー? マサトくんのおかげで話のテンポとかいろんな設定とかセリフ回しうまくなってるよ。ほら、最近のコメント数見て。前の倍以上あるよ」
「ユキ先生はこのまま僕と一緒にやっていきたいですか?」
「もちろんだよー。というか、君がいないと私生きていけないよー」
違う。こんなのユキ先生じゃない。先生はもっとふわふわしてていいんだ。
「おーい、マサトくーん。私の声聞こえてるー?」
「先生……」
「なあに?」
「しばらく僕なしで漫画を描いてください」
「……え?」
「僕という存在がユキ先生の作品をめちゃくちゃにしています。このままだといずれ……」
「ダメだよ。君はもう私のものなんだから一生私のそばにいないとダメだよ」
「そんなの絶対ダメです! 僕がいたらあなたはダメになってしまいます! だから!!」
「マサトくん。私がこうなったのは君のせいなんだよ? ちゃんと責任取ってよ」
彼女の体から人間の闇が溢れ始める。
「こ、これは! くそ! なんで早く気づかなかったんだ! おい! 締め切り虫! 早くこの部屋から出ろ!!」
「え? なんだ? これが人間の闇なのか? すっげー! なあ、触ってもいいか?」
「バカ野郎! いいから早く逃げろ!! 死にたいのか!!」
「大袈裟だなー。まあ、いいや。じゃあ、あとよろしく」
「ああ」
うーん、でも、これどうすればいいんだ? 僕と出会わなければ先生はこんな姿になってないはずだから……。まあ、これしかないよな。
「先生、僕は今からあなたにひどいことをします。でも、それであなたは元に戻ります。さようなら……ユキ先生」
「……え?」
僕は彼女の頭に手を置くと彼女の闇の根っこを掴んだ。
「先生、僕のことを忘れてもちゃんと漫画描いてくださいね」
「や、やめて……私、あなたのこと忘れたくない……」
「それはダメです。これ以上悪化したら、あなたは自我を失ってしまいます」
「やだ……! やだ……!」
「すみません。今の僕にはこれしか……」
「お兄さん」
僕が彼女の記憶にアクセスして僕に関する情報を消そうとするとレイナ(白髪ロングの幼女だが宇宙人である)が現れた。
「れ、レイナ! どうしてここに!?」
「お兄さん、その人助けたい?」
「ああ、もちろんだ。でも、僕は管理者だから記憶を消すくらいしかできないんだよ」
「それはお兄さんがヒュミリウムを……人間の闇を完全に受け入れてないからだよ」
「完全に受け入れてない?」
「うん、そうだよ。だから、あの子は拗ねてるんだよ」
「あの子?」
「あれ? もしかしてあの子と会ったことないの?」
「……ないです」
「そっか。まあ、あの子、人見知りだから気にしなくていいよ」
「そ、そうなのか?」
「うん、そうだよ。えーっと、お兄さんはこれからあの子と握手してきて。あっ、この人のことは私に任せて。じゃあ、頑張ってね」
「え? ちょ、待っ!!」
彼女が指を鳴らすと僕の視界は真っ暗になった。




