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で? さっきの話は実話なのか?

 その日から僕はユキ先生の担当編集になった。まあ、趣味で漫画を描いている人の担当だから別に断っても良かったのだが、彼女の家にあいつがいたため断れなくなった。妖怪、締め切り虫。漫画家や小説家の卵を育成するのが好きな妖怪だがやつのせいで挫折した人が何人かいるため、それだけはなんとしてでも阻止しなければならない。


「ねえ、マサトくん。ここのセリフ、これでいいかな?」


「えーっと、その前に区切りのいいところまで進めた方がいいです」


「そっか。そうだよねー」


「おい、お前」


「ん? なんだ?」


「ちょっとこっち来い」


「え? あー、うん、分かった」


 締め切り虫は彼女の部屋の外に出ると僕にこう言った。


「正直に言え。お前、ここに何しに来た」


「いや、僕はただ先生にアドバイスをしに」


「嘘つけ! 俺を消しに来たんだろ!!」


「なんで消す必要があるんだ? お前のおかげで夢が叶った人は何人かいるんだから消す必要ないだろ?」


「お前じゃなかったら俺もこんなに焦ってねえよ。でも、お前はあの雅人まさとだろ?」


「あのって僕ってそんなに有名なのか?」


「お前な……教会のやつらと戦って生き延びたのはお前以外いないんだぞ? 有名にならない方がおかしいだろ」


「あー、えーっと、僕は人間がこの世にいる限り死ねない存在だから負ける可能性はなかったんだよ。でも、教会のメンバーの一人が僕の妹をバカにしたからちょっと分からせてやったんだよ」


「はぁ……お前、噂以上に変わったやつだな。その時、どうして教会を壊滅しなかったんだ?」


「え? あー、それは世界に必要な組織を私怨で滅ぼすのはまずいかなーと思って」


「あー、もういい。お前は多分あれだ。自分がどれほど恐ろしい存在なのか分かってるけど、それが自分にとって普通になってるんだ。あー、あと、お前は自分より他人を優先してるお人好しだな。しかも見返りを求めないから余計そう見える。だが、それはお前の一面だ。お前が理性で縛ってる本能がいったいどれほどのものなのか分からない。あー、そうそう、お前常時人間の闇を感じてるんだろ? どんな気分なんだ? やっぱりきついのか? それとも何も感じないのか?」


「はぁ……好奇心は猫を殺すぞ」


「うるせえ、俺はやりたいようにやる主義なんだよ。なあ、教えてくれよ。なあなあ」


「全て教えることはできない。妖怪だろうと人間だろうとアレは精神を壊そうとするからだ。だから、僕は直視せずチラ見している」


「そんなにひどいのか?」


「なあ、締め切り虫」


「なんだ?」


「お前はキリンのオスの交尾の件を知った時、どう思った?」


「え? うーん、まあ、そういう動物がいるんだなーと思ったぞ」


「そうか。じゃあ、お前がもし、人類という種族が一生かけても辿り着けない真実を知ってしまったとする。それを誰かに伝えるとお前は死ぬ。お前にできるのは墓までそれを持っていくのと誰かに伝えて死ぬ、この二つだけだ。この場合、お前はどうする?」


「……それは人類に何か大きな影響を与えるのか?」


「与えるだろうな。まあ、別に知らなくてもいいことだけどな」


「そうか。うーん、多分俺は誰かに伝えるだろうな。あっ、ちなみにそれは実話か?」


「はぁ……お前そこそこ頭いいのに察しが悪いんだな」


「悪かったな、俺は昔からこういうやつなんだよ。それで? お前は何が言いたいんだ?」


「僕が言いたかったのは都合よくそれを知る前の状態に戻すのは難しいから余計なことに首を突っ込まずに生きてほしいってことだ」


「そのレベルなのか? 人間の闇ってのは」


「さて、どうだろうな。けど、これだけは分かる。絶望のとなりに希望なんていない。そこにあるのは絶望とそれに群がる負のエネルギーだけだ」


「そうか……で? さっきの話は実話なのか?」


「はぁ……お前、実はただの物知りなんじゃないのか?」


「あー、たまに自分でもそう思う時あるなー」


「自覚あるなら少しは自重しろ。いつか絶対後悔するぞ」


「へいへい」


 こいつ、目の前で誰か死んでもそいつがなんで死んだのか調べ出しそうだな……。

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