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千羽鶴

 僕たちが公園から出ると水色の折り紙でできたつるがどこからか飛んできて僕の目の前で静止した。僕がそれを無視して実家に向かおうとするとそれは僕の目の前まで移動し、僕の行く手を阻んだ。


「えーっと、これは……」


「その子、お兄さんを呼んでるよ」


 宇宙人(白髪ロングの幼女)はそう言うと家とは逆方向に向かい始めた。


「そうだったのか。というか、月まだ赤いのか。ちょっと不気味だな」


「いつもの月の方がいい?」


「え? あー、まあ、そうだな」


「そう。じゃあ、そうする」


 彼女が指をパチンと鳴らすと月の色が赤から黄色に変化した。


「ちょ! 今のどうやったんだ!?」


「内緒。さぁ、早く行こう」


「あ、ああ」


 例のつるは僕の頭に乗って羽休めを始めた。どこから飛んできたのか分からないけど、ここまで来るの大変だったよな。お疲れ様、しばらく休んでてくれ。


「ここは……病院だな」


「病院?」


「あー、えーっと、怪我人や病人を治す施設のことだよ」


「あー、そういえば、地球には治療ポッドなかったね。なるほど。地球人はここで体を治しているんだね」


「ああ、そうだ」


 この子の星の技術すごいなー。大抵のことはできそうだ。


「そんなことないよ。まだまだできないことたくさんあるよ」


「そ、そうなのか?」


 心読めるのはこの子の能力なのかな?


「うん、そうだよ」


「今のはどっちに対しての返答だ?」


「どっちもだよ。さぁ、早く中に入ろう」


「え? でも、今日はもう閉まってるぞ?」


「大丈夫、今から開けるから」


「え? それって不法侵入……」


「この星が滅んでもいいのなら帰っていいよ」


「よろしくお願いします」


「分かった」


 彼女が指をパチンと鳴らすと自動ドアの鍵が解除された。


「お兄さん、私非力だから扉開けて」


「え? あ、ああ、分かった」


 僕が扉を開けると彼女は「ありがとう」と言った。僕は「どういたしまして」と言って一緒に病院の中に入った。彼女は一瞬の迷いなく、とある病室の前までスタスタ歩いていった。彼女はその病室の前で立ち止まると僕にこう言った。


「お兄さん、この扉開けて」


「分かった」


 僕が扉を開けると今まで羽休めをしていた例のつるが僕の頭から離れ、斜め左方向に向かって飛び始めた。それは窓際のベッドまで飛んでいった。僕たちはゆっくりそのあとを追った。


「……こんばんは。待ってたよ」


 例のつるはベッドに腰かけていれ黒髪ショートの幼女の頭の上に乗っている。彼女は病衣を着ているから、おそらくここの患者なのだろう……。ん? ちょっと待て。今日この病院は閉まってるよな? ということはこの子は……。


「えっと、君は?」


「小一の時、病気で死んじゃった女の子が生前受け取れなかったあるものをどうしても受け取りたくて幽霊になった。はい、説明おしまい」


「えっと、名前とかは?」


「さぁ? 忘れたよ。私が死んだの五十年くらい前だから」


「そうか。それで? 君が生前受け取れなかったものってなんなの?」


「これだよ」


 彼女は自分の頭の上にある折り紙でできているつるを指差しながらそう言った。


「これ? これってつるのこと?」


「うん、そうだよ。まあ、これがあと九百九十九羽必要なんだけどね」


「そうか。千羽鶴か」


「ねえ、お兄さん。せんばづるって何?」


「え? あー、えーっとだな。千羽鶴っていうのは長生きできますようにとか早く病気が治りますようにとか、とにかくそういう祈りを込めながら折り紙でつるを折った後、それに糸を通したもののことをいうんだよ。あと、その祈りを届けたい人に送るとその祈りがその人に届くそうだよ。まあ、千羽っていうのは多数って意味だからちょうど絶対千羽折らないといけないってわけじゃないんだけどな」


「へえ、そうなんだ。でも、それで助かるならみんなやってるよね?」


「え? あー、まあ、そうだな」


「でも、例え気休めだとしてもそれを受け取れずに死んじゃった人が何人もいるんだよ。例えば……私とかね」


「えっと、つまり、君は僕に千羽鶴を作ってほしいんだね?」


「うん、そうだよ。あと、できれば今晩中に」


「こ、今晩中!?」


「安心して。二人がここに来た時から天井で聞き耳立ててる座敷童子と協力していいから」


「……やはりバレていましたか」


 座敷童子の童子わらこが姿を現すとその子はニッコリ笑った。


「死んでからいろんなことを見聞きしてきたけど、文字使いの座敷童子を見るのは初めてだよ」


「そうですか。それよりさっさと仕事を終わらせてもよろしいですか?」


「うん、いいよ」


「分かりました。ということで、今からここにいる三人で千羽鶴を作ります。あっ、残りの一羽はあなたの頭の上にいるつるでいいですか?」


「うん、いいよ」


「分かりました。では、今から私の文字の力で私たち三人を増やします。オリジナルはここに残り、その他は別の空間で作ってもらいます。あー、それと折り鶴の作り方が書かれた紙や折り紙なども私の文字の力で増やしますので安心してください。何か質問はありますか?」


「うーん、ないな」


「ないよ」


「分かりました。では、慌てず、急いで、正確に作りましょう」


「はい!」


「了解」


 数十分後、僕たちは完成した千羽鶴を彼女に渡した。すると彼女はニッコリ笑いながら「また会おうね」と言って姿を消した。


「良かったな、成仏できて」


雅人まさとさん、幽霊というのは未練がある限り、この世に居続けるんですよ」


「え? あー、まあ、そうだな」


「あれ? もしかしてお兄さん自覚ないの?」


「ん? 何がだ?」


 宇宙人と童子わらこはため息をくと似たようなことを言った。


「あなたと思い出作りをしたい。それが彼女の未練です」


「お兄さんとあんなことやこんなことをしたい。それが彼女の未練だよ」


「え? えええええええええええええええええええええ!!」

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