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誘拐?

 僕が帰宅すると、妹の気配がなかった。

 いつもなら、長い黒髪で僕の腕や頭を撫でたり、僕の胸に飛び込んでくるのに。

 おかしいな。庭にでもいるのかな?

 僕が庭に行こうとした瞬間、ねずみの大群が眠っている妹を担いで運ぼうとしている光景が目に入った。


「は?」


 僕がそう言うと、ねずみたちは妹を道路に落とさないように、その場から退散した。

 僕はそれをみすみす見逃すような薄情なやつではない。

 そのため、すぐにねずみたちに追いつくと、鼠たちのシッポに火をつけた。


「僕が留守の間に世界でたった一人の妹を誘拐しようとするなんて、いい度胸してるじゃないか。一応、言っておくけど僕が命令しない限り、その地獄の炎は絶対に消えないよ。さぁ、さっさとボスの居場所を吐け。さもないと、丸焼きになるぞ?」


 鼠たちは全員道路で土下座をすると、燃えているシッポをブンブン揺らしながら、謝罪した。


『申し訳ありません! 鉄鼠てっそ様の命令には逆らえないのです! しかし、今回の件について我々は深く反省しておりますので何卒なにとぞお許しください!!』


 さて、どうしようかな。

 このまま、こいつらを監獄送りにしてやってもいいが鉄鼠てっそという妖怪は執念深いからな。

 手駒とはいえ、いなくなられては困るだろう。


「別に許してやってもいいが、一つ伝えてほしいことがある」


『伝えてほしいこと……ですか?』


 ただで主人の元に帰らせるほど、僕はお人好しじゃないんだよ。


「ああ、そうだ。お前たちは僕の目の前で僕の妹を誘拐しようとした。本来なら監獄送りにするが、それだと妹が鼠を見る度にお前たちのことを思い出すかもしれない。だから、鉄鼠てっそにこう伝えてくれ。僕と戦いたいのなら、直接来いってな。あー、あと、その火はお前たちが鉄鼠てっそにこのことを伝えるまで消えないから、なるべく急いで帰れよ」


『はい! 分かりました! それでは失礼します!』


 鼠たちがその場を去ると、僕は妹を抱きかかえた。

 僕は妹の体に付いた砂や雑草の一部を落とすと、リビングのソファーまで運んだ。


夏樹なつき、大丈夫か?」


 僕の存在に気づいた夏樹なつきはゆっくりと目を開けると、僕の頬に手を添えた。


「お兄ちゃん……おかえり……」


「ああ、ただいま。体の具合はどうだ?」


 妹は小首を傾げながら、長い黒髪を僕の腕に巻きつける。


「大丈夫……だよ……。私は……とても元気……」


「そうか。なら、良かった」


 僕の妹は『二口女ふたくちおんな』だが、この世にたった一人しかいない大切な存在だ。

 だから、僕の妹をひどい目にわすようなやつはどこの誰だろうと、僕の鬼の力で叩きつぶす。


「お兄ちゃん……」


「ん? なんだ?」


 その時、妹のお腹が鳴った。


「そっか。お腹空いたのか。よし、じゃあ、今日はオムライスにしよう」


「やったー……」


 妹はニコニコ笑いながら、長い黒髪を嬉しそうに揺ら揺らと動かしていた……。

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