9 銀のかけら
セツが目を覚ましたとき、地下鉱脈の姿はどこにもなかった。
代わりに、次々と窪地へ水が流れ込んでいく。どうどうと音を立てて、岩が削られていった。
セツの近くにやって来た半性が言った。
「ここにはまた湖が出来るね」
ウタの住民が集まって来ていた。その内の一人がセツを助け起こしてくれる。
「精錬石は……銀のドラゴンは?」
住民は水面を指差す。水面には、粉々になった銀の鉱石が浮いていた。
「あ、君!」
セツはあふれそうな気持ちをこらえて立ち上がると、湖に向かって走る。
住民にもらった木の笛をくわえて、おもいきり吹く。音階など結局覚えられなかった。力任せに音を鳴らす。
湖は水量が増えていくばかりで、そこから生き物の姿は覗かない。
「オーブ!」
セツは笛を鳴らす合間に叫ぶ。
「僕は今だって君を呼んでる! 君とアンシエントドラゴン・バレーに行くって約束したから!」
声を枯らしてオーブの名を呼ぶ。
湖面を風が渡っていく。音も声も遠くまで運ばれていくのに、帰ってくることはない。
セツの目がにじんで、湖のように雫が溜まったときだった。
「……子どものような方」
たしなめるように、セツの頬に誰かが触れた。
動きを止めて、セツは視線を落とす。
「こんな欠片の体ではもう、アンシエントドラゴン・バレーへ運んではあげられませんよ」
そこに小さな姿を見た。手の平に乗るほどの大きさで、羽根が生えていて、長い銀髪の少女。
紫の優しい瞳が、セツを映し出す。
セツは手の平に彼女を乗せると、喉を震わせる。
目を閉じて涙をこらえながら、セツは告げた。
「……いいんだ。僕の肩に乗って、一緒に行こう」
泣かないように、それだけ言うのが精いっぱいだった。
セツはずるずると座り込んで膝を抱える。
オーブの手がセツの頭に触れる。セツは震えながら、長いこと頭を撫でられるままになっていた。