表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンとフェアリー  作者: 真木
1 水と石の章
9/24

9 銀のかけら

 セツが目を覚ましたとき、地下鉱脈の姿はどこにもなかった。

 代わりに、次々と窪地へ水が流れ込んでいく。どうどうと音を立てて、岩が削られていった。

 セツの近くにやって来た半性が言った。

「ここにはまた湖が出来るね」

 ウタの住民が集まって来ていた。その内の一人がセツを助け起こしてくれる。

「精錬石は……銀のドラゴンは?」

 住民は水面を指差す。水面には、粉々になった銀の鉱石が浮いていた。

「あ、君!」

 セツはあふれそうな気持ちをこらえて立ち上がると、湖に向かって走る。

 住民にもらった木の笛をくわえて、おもいきり吹く。音階など結局覚えられなかった。力任せに音を鳴らす。

 湖は水量が増えていくばかりで、そこから生き物の姿は覗かない。

「オーブ!」

 セツは笛を鳴らす合間に叫ぶ。

「僕は今だって君を呼んでる! 君とアンシエントドラゴン・バレーに行くって約束したから!」

 声を枯らしてオーブの名を呼ぶ。

 湖面を風が渡っていく。音も声も遠くまで運ばれていくのに、帰ってくることはない。

 セツの目がにじんで、湖のように雫が溜まったときだった。

「……子どものような方」

 たしなめるように、セツの頬に誰かが触れた。

 動きを止めて、セツは視線を落とす。

「こんな欠片の体ではもう、アンシエントドラゴン・バレーへ運んではあげられませんよ」

 そこに小さな姿を見た。手の平に乗るほどの大きさで、羽根が生えていて、長い銀髪の少女。

 紫の優しい瞳が、セツを映し出す。

 セツは手の平に彼女を乗せると、喉を震わせる。

 目を閉じて涙をこらえながら、セツは告げた。

「……いいんだ。僕の肩に乗って、一緒に行こう」

 泣かないように、それだけ言うのが精いっぱいだった。

 セツはずるずると座り込んで膝を抱える。

 オーブの手がセツの頭に触れる。セツは震えながら、長いこと頭を撫でられるままになっていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ