5 すれちがい
セツとレナは手分けして、アンシエントドラゴン・バレー中の古代竜の家を回った。
若い古代竜は、ゴールデン・ストリームと谷の外のドラゴンの来訪を喜んでいた。ドラゴンたちが集会場に集まると聞くと、すぐに自分も向かうと答える。
けれど老いた古代竜たちは、家を離れない者もいた。
「最期までここで過ごすよ」
古代竜たちの家は既にゴールデン・ストリームで壊れ始めているところもあったが、彼らは動こうとはしなかった。
「心配してくれてありがとう。でもね、アニマに逆らいたくはないんだ」
ドラゴンは年老いても、外見は四十歳前後までしか年を取らない。それでも彼らは、セツには与り知らないほどの永い時を生きている。
「光でも影でも、私にとっては愛すべきアニマだ。アニマが望むなら、私はその中に還りたいと思う」
最近伴侶を亡くしたという古代竜は、ほほえんでセツに諭した。
セツは唇を噛んで、老いた古代竜の家を去るしかなかった。
谷の斜面には亀裂が走り、ゴールデン・ストリームが噴き上げる。アニマはそこに家があってもドラゴンがいても、思いのままに氾濫していた。
「ここから下の古代竜たちには、ラグランと手分けして声をかけました」
半分ほど回ったところで、オーブに会った。
「セツはそうするだろうと思って」
オーブはふいに真顔になる。
「アニマの影と戦うつもりですか?」
セツがうなずくと、オーブは困ったように口を歪めた。
「とても危険なことだとわかっていますか?」
「うん」
「セツらしいです」
セツの頭をなでて、オーブはほほえむ。
「あなたのアニマを祝福していますよ」
体を離して、オーブはおどける。
「レナさん。睨まないでください」
セツが振り向くと、レナがすぐ近くまで来ていた。ぐいと少し乱暴にセツの手を引いて、斜面を下っていく。
「レナ?」
「……あなたは年上の、優しいドラゴンが好きなのね」
不機嫌な声を聞いて、セツは考えながら答える。
「それは、その、子どもの頃からシーリンしか身の回りにいなかったから」
セツが言葉に詰まると、レナは顔を背ける。
「どうしたって比べるでしょう。私とシーリンを」
「レナはレナだよ!」
セツは湧き上がる気持ちのまま声を荒らげて、レナに言い返していた。
「馬鹿にするな! 僕はそんなこともわからない子どもじゃない!」
レナが怯んだとき、セツの足元が揺れた。
あ、と短く声をこぼす。セツの真下に亀裂が走って、そこから七色の光が見えた。
「セツ!」
レナが手を伸ばす。その手を掴もうとして、セツは体の下で脈動する流れを感じた。
アニマが呼んでいる。
その声に耳を傾けたとき、思わずレナの手を掴み損ねた。
頼りない浮遊感は一瞬。すぐにセツを眩しいばかりの光が取り巻いて、後は滝に落ちていくように大きな流れに取り込まれていった。




