一、窓辺の憂鬱
窓をだらしなく伝う雨水は、うるさいほど眩しい教室の電灯を反射することも無く、斜めに落ちていく。
メガネ越しにその光景を見るのも飽きたので、私はカーテンを閉めた。
昼休みは退屈だ。おまけに騒がしい。騒がしいというのは、机を動かしたりくっつけたりして、無理に群れようとする彼女たちの声のことである。
四月、春、桜、雨、入学、出会い、友達…。彼女達はそんな概念たちに固執する。固執すると言っても、季節が去るとあっという間に手放してしまう。手放して、ちょうど地球が太陽系を一周する頃に思い出したように騒ぎ始めるのだ。
生きていることを確認するように、必死になって同じ道を行ったり来たり。その姿は、木にしがみついて死ぬまで鳴く夏の蝉のようで。
はっきり言って、何がしたいのかわからない。というよりも、見ていて暑苦しい。暑苦しいので、机に置いていた水筒を口につける。中途半端にぬるくなった水が、歯を潜り、舌を乗り越え、喉を滑ったところで、私は不意にさっきの雨粒を思い出した。喉が潤った気はしないが、そういえばもともと乾いていた覚えもない。
やっぱり、ここは居心地に優れない。そう悟った私は、スマホだけを片手に席を立ち、廊下に出た。壁にもたれて、スマホを眺める。ネットニュースは面白くない。先月ハマっていたゲームも飽きた。音楽を聴こうにも、イヤホンを忘れた。最悪だ。
目を閉じれば視界は消えるし、鼻も塞げば匂いは感じない。しかし耳は限界がある。指を耳につっこんだまま壁にもたれているのは、どことなく嫌だ。栓をする以外に、この騒がしい笑い声や話し声をシャットアウトする方法はないのだ。
溜息を着くのは面倒なので、そのかわりに腰を落とす。重力の言う通りに、重い腰を床に。腰と壁が擦れ合い、熱を感じた。
何をする訳でもなく、私は廊下で座って頬杖をつく。そんな人間に絡もうとする者は居ないだろう。当然だ。もし私がどれだけ明るい女子だったとしても、そんな同級生には関わる気が起こらない。話しかけるなんて、以ての外だ。私…水下紫月はそういう人間だ。興味を持たれるのは避けたいし、持つのも面倒くさい。だからこうして、埃の掃かれていない空間で背を丸めているのだ。
「虹、見なくていいのかい?」
だから、その声は、私に向けたものでは無いことぐらい、その主の顔を確認しなくてもわかる。
水下紫月
星花女子高等部の一年一組に所属。
無愛想で他人に興味が無い、無口な少女。
黒縁のメガネを常に着用。肌は色白。
外ではほとんど黒い帽子を深く被り、イヤホンで音楽を聴いている。スマホを四六時中手放さない。




