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イステの事情

 

「ねぇ、イステ。ボクの世界の勇者は、彼がイイな」


 幼い容貌の創世神は無邪気に告げる。

 指先が示す先、遠見用の水晶球に映し出されているのは、ごく普通の青年だった。

 お世辞にも「勇者つよそう」にはみえない。

 けれど、神が彼を勇者だと定めた。その決定をイステが覆す手段はない。


 たとえ相手が就任したばかりの実績が少ない新人とはいえ、神は神。

 天使であるイステにできるのは、なるべく平坦な声で、事務的に了承することだけだった。


「……承りました」


 嫌になるほど繰り返した言葉だ。


 最近の創世神(若い子)は、高確率でイステに勇者の育成を望む。

 例え、勇者など必要としない平和な世界であっても。


 ……またひとり、犠牲者が増えたわ。


 哀れな選ばれし青年の未来を思い、イステは心の中でそっと手を合わせた。



 * * *



 神は、世界を創り育てる。

 よく言われている事だが、それは真実ではない。


 世界の構造は複雑で、たった1柱の神がどうこう出来るものではない。

 神の仕事は、世界の礎となるエーテルの管理と、大雑把な方向性を決める事。

 こまかな設計や運営に直接携わるのは、それぞれの分野に特化した存在で構成されるチームだ。

 年齢も、出身地も、種族さえも異なる彼らは、いつしかその仕事内容から天の使い――天使と呼ばれるようになった。


 イステは、天使のひとりだ。もう数える事すら困難なほど長い時を天使として働いている。

 所属チームは運営部の企画室。

 極力争いをおこさない、平和を最優先とする運営能力を高く評価されていた。


 そう、評価されてい。過去形だ。

 現在の彼女は「勇者の育成」という武力を前提とした世界運営に携わっている。



 * * *



 始まりは、イステにとって昔なじみである創世神の依頼だった。

 名前はリール。あまり力の強い神ではなかったけれど、自分にできうる限り堅実に世界を育ててきた心優しい創生神だ。

 争いを好まず、智による成長を重視して――そうして彼女の世界は壊れかけた。


「どうしましょう、イステ! あんなモノに対抗できる程の武力なんて、わたくしの世界には存在しないわ」


 ソレはある日突然、リールの世界に現れた。

 知性を持たず、手当たり次第に周囲を破壊する黒きモノ。

 黒で空を塗りつぶし、赤で大地を染め上げて――……圧倒的な暴力を持って世界を蹂躙する。

 おぞましき怪物を倒せる存在は、けれど彼女の世界にはいなかった。


「森の賢者が数人その身を柱として封じ込めたけど、もって十数年だと思うの……」


 つまり十年後にはまた柱をたてるか、もしくは世界の終焉をもって黒きモノをどうにかしなければならないと言うことだ。


 アレがどうやって彼女の世界に現れたのかは、わからない。

 突然変異で発生したのか、それとも時空の裂け目を通ったのか、はたまた悪意のあるモノに送り込まれたのか、すぐには判断がつかない。

 時間をかければ特定は可能だろうけれど、彼女の世界は――智を誉れとし、戦すら知らぬ平和な世界は、そうこうしている間に壊れてしまいそうだった。


「イステ、何か方法はないかしら。賢者の結界が残っているうちに黒きモノを討伐できるような力を手に入れる方法は……」


 リールから洪水をおこす(リセットする)のはいやだ、と相談されてイステは考えた。

 戦も討伐も専門外だったが、そうは言ってられない。

 洪水による世界の滅びが意味する事を、イステは知っている。

 あんなにも悲しい事態を彼女の世界で引き起こしたくはなかった。


「誰かに加護を与える……? ううん。それだけじゃ心もとない」


 イステが頭をふる。脳裏に浮かんだのは、神に加護を与えられる事によって特別な能力を身に着けた存在達だ。

 聖女や聖人と呼ばれる彼らは、比較的いろんな世界にいる。


 けれど、加護とは元々持っている能力の引き上げを目的に与えられるもの。

 戦に長けた者がいないリールの世界の住人に加護を与えたところで、あの黒きモノが倒せるかどうかはわからない。

 あんなにも禍々しい気配を放っているバケモノだ。ちょっとやそっとじゃ相手にもならないだろう。死にに行くようなものだ。


「あーもう、どっかに勇者でも落ちてないかな!? そうすればサクッと解決するのに!」


 考えて、考えて、それでもいい考えは思い浮かばない。

 イステは半ばやけになりながら叫んだ。

 いま思えば、コレが始まりだったのかもしれない。


「待ってイステ、それは違う意味で危険……ああ、でも勇者はいいかもしれないわ」


 勇者とは、超越者とも呼ばれる存在だ。

 何らかの要因でとてつもない力を得た者の事で、状況によっては世界を壊すこともできるらしい。

 そんな彼らを制御するために与えられる称号が、勇者。

 つまりは危険な生き物には枷をはめよという考えの下に作られたソレである。


「え? リール……? 自分で言っといてなんだけど、勇者ってそうそう落ちてないからね?」


 黒きモノ(きけんぶつ)には勇者(きけんぶつ)で対抗よ、と眼を輝かせ始めたリールに、イステがひるんだ。

 確かに勇者がいれば黒きモノは退治できるかもしれない。

 けれど、勇者なんて生き物はそう簡単には発生しないし、どこかに存在していたとしてもその世界の神によって厳重管理されている。

 借りてくる事も難しい勇者が、野生にいるわけがない。


「そんなことくらい知ってるわよ。でも、創世神わたしが全力で補佐すれば勇者のひとりやふたり、育てられると思うの」


「……は?」


 もしかしたら自分の不用意な発言は、とんでもない事態を引き起こしたのではなかろうか。

 その現実にイステは時間をまき戻したくなった。



 * * *



 そこから先は、怒涛の展開だった。

 まずは適性のありそうな若者を7人ほど選んでしてリールの加護を与えた。

 多すぎず、少なすぎず、育てるには程よい人数だと思う。

 もちろん全員が勇者になれるとは思っていない。彼らの内のひとりでも育てば勝機はある、というのがリールの考えだ。


 教育プログラムはイステが担当する事になった。

 専門外ではあったが、きっかけを与えたのはイステなので責任をとったかたちだ。


 リール天使イステによる行き当たりばったり2人ぼっちプログラムは、予定調和のように行き詰まり、すぐに各所から応援を集める事態となったのだけれど。


 最終目標に黒きモノの討伐を掲げ、イステは最初に制作部のデザイン室から専門家を呼んだ。

 まずは戦いに慣れてもらわなくてはならないから、練習用に似たような性質のモノを創ってもらいたかったのだ。


 やってきたのは黒髪黒目のつかさという男性で、穏やかな人柄と評判の地球出身の人族。

 魔族をこよなく愛する彼は、例のアレを「黒きモノ」と呼んだイステを気にいり、手厚いサポートを約束してくれた。


「魔」から始まる名称で呼ばなかった所が高評価らしい。

 魔王、魔族、魔物……そういった名称は彼にとって特別なのだそうだ。よくわからない。


 司は黒きモノと似た性質を持つモンスターを、強さ別でたくさん創ってくれた。

 それらを弱いもの順に倒していく事で戦いを学び、成長させるのだそうだ。

 司の国では「れべりんぐ」というらしい。


 戦闘指南は技術部・魔法魔術専属チームのサイラスにお願いした。

 サイラスは、旧世界「ティルナノグ」出身のエルフ族であり、魔術の専門家でもある。

 彼ならば、リールの世界にふさわしい戦術を編み出してくれるだろう。


 ちなみに、旧世界とは地球が軌道に乗る以前に創られ、洪水によって滅んだ(リセットされた)世界の総称で、イステの出身地であるレムリアもそのひとつだったりする。


「げーむ」で育った司に、「森」と共に生きたサイラス。

 彼らの助言は実に的確で、イステは「コレもう私いらないんじゃないの?」と首をかしげながら各所の調整に走り回ったものである。


 そうして紆余曲折すること約10年。

 勇者が育ち、黒きモノは倒され、リールの世界は平和を取り戻した。


 この件にかかわった天使たちは無事に腐った縁で結ばれ、以来何かと理由をつけては呼び集められることになる。

 具体的にいうと「自分の世界でも勇者を育ててくれ」という創世神あとおいが続出したのだ。


 勇者は世界を成長させるなどという妄言を撒き散らしたのは誰だ、と司がキレたのはずいぶんと昔の話だ。

 ちなみに当時のイステはやさぐれていて、サイラスは灰と化していた。


 そうしてブームは終わる気配のないまま、今もなお天使たちを振り回している。


◆イステ

旧世界レムリア出身のプランナー。

運営企画室所属。

いわゆる歴女。

最近の創世主の知識のなさと雑さに苛立っている。

しゃべりだすととまらない。


◆八森司

地球、日本出身のデザイナー。

制作デザイン室所属。

魔族をこよなく愛する男。

安易な理由で魔族を危険な生き物にしようとするとものすごく怒られる。

魔族が悪とされる世界をいっそ滅ぼしたいと思っている。

人はそれを中二病とも呼ぶ。


◆サイラス

旧世界:ティルナノグ出身のエンジニア。エルフ族。

魔法を愛する誇り高き森の民。

好きな言葉は予定調和。嫌いな言葉は臨機応変。

不確定要素が死ぬほど嫌いで「魔法は使用する者の心で威力が変わる」という指示を出す創造神は灰にしてやりたいと思っている。


1万文字くらいの短編かな、と思っていたのですが、一万書いた時点で半分も終わらなかったのであきらめて連載にしました。

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